「営業ノウハウ」は役立たずなのか②
「営業ノウハウ」は役立たずなのか
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◇ノウハウの威力
 私が40年の歳月を超え、しつこく考えてきた営業に関する結論をまとめたものが「提案営業研修標準講座」を中核とする和田創方式の研修カリキュラムである。ただし、私は営業を究めたわけでない。いまも発展途上だと信じている。
 還暦を過ぎた頃から執念が実を結びはじめ、「和田創研」のホームページに掲げるとおり、教育指導のバリエーションがずいぶんと広がった。お陰でテーマが日々変わり、新鮮な気持ちで仕事に臨める。また、ボケの防止にもいくらか役立っているようだ。
 さて、私が体系化に努めてきた営業のセオリーとノウハウだが、それに対して疑念や不信を抱く営業関係者が少なくない。極端に毛嫌いする古参の営業幹部も珍しくない。

それは営業活動そのものに対する理解の乏しさも一因である。

 私が企業研修を行うと、受講者から反発を受けることがある。彼らは現場で、しかも体で覚えてきたので、演台で行う講師の説明が気に食わないのだ。「営業は理屈じゃない」。休憩時間にそうした会話がときどき耳に入ってくる。
 私は職業柄、大勢の営業担当者と接してきた。また、NPO法人営業実践大学理事長として毎月トップセールスパーソンをゲストに招き、会員とともに極意を学んできた。経験だけは豊富なので簡単に「営業力」を見抜け、それほど外さない。いい営業は、いい表情といい雰囲気を備えている。
 私が、業績がどん底のクライアントで教育指導に当たったとき、いかにも冴えない風貌のベテランから「そうやってもうまくいかなかった」という指摘を受けた。彼は「営業ノウハウ」というものをまったくはき違えている。それ以前に、私が説いた内容をどのレベルまで行ったのかという疑問も残る。
 どうか冷静に考えてほしい。営業担当者が相対する顧客はわがままで手ごわく、そのうえ情緒や気分が揺れ動く生身の人間である。しかも営業活動は状況がその都度異なる。

かならず成功するセオリーやノウハウなど存在しない。

 そうしたものが存在するなら、収益にこだわる企業も、成果給で働く個人も大金をはたいて購入するだろう。おそらく″トヨタ銀行″はすべてのカネをつぎ込んで手に入れる。シェアが百パーセントになるかもしれないからだ。仕事や経営のセオリーやノウハウでも同じ。以下、単にノウハウと呼ぶ。

ノウハウとは、営業活動を推し進める「確度」を高めるためにある。確かさの度合いのこと。

 いくらかでも営業活動の「確実性」を高め、商談の「成功率」を上げようとするならば、ノウハウは不可欠となる。
 例えば、営業活動がスタートの「テレアポ」から、ゴールの「クロージング」まで、5つのステップで成り立つとする。

そのステップをクリアできないと、次のステップへ進めない。

 営業担当者がノウハウを習得し、「テレアポ」の成功率を20%から40%にする。さらに「初面談」の成功率を30%から60%にする。これで「再面談」が可能な顧客(見込客)の割合は、前者が6%、後者が24%になる。初期段階ですでに4倍の開きが生じている。
 その後のステップでも、ノウハウを持たない人と持つ人で、確実性に2倍の開きがつくとする。最終ステップでは、2の5乗、つまり32倍の開きがつくことになる。
 私がさまざまな業種や企業で見聞きしてきた成績の格差である。正社員における格差が150倍という中堅企業もあった。単年度や短期間の特殊要因を除いての話。
 そして、これこそがノウハウの有効性であり威力である。現実の営業活動ではもっと多くの手続きを踏むことがある。

商談の成功率は各ステップの「歩留まり」を掛け算した数字になるから、空恐ろしいほどの格差である。

 社長がテレアポや飛び込みによる新規開拓を命じても、成果をまったく上げられない社員が出てくるのはそのためだ。

◇行動の原理と原則
スーパーセールスパーソンが営業活動を飛び込みから始め、20%も成功したとする。溜め息が漏れるほどの数字だ。

しかし、それ以上に大事なのは、この人にして80%も失敗している事実に目を向けることだ。

 並の営業担当者が商品の販売や仕事の受注につなげられる割合はきわめて低い。そもそも営業の仕事は、来た道を振り返れば「失敗」が降り積もっている。それをわきまえることが不要なプレッシャーや過大なストレスに押しつぶされないうえで大切である。

営業活動をうまくやらなければならないと思い込むと、それを楽しむ心の余裕を持てず、歯車が狂い出す。

 開発営業一筋の私は、営業にとり失敗とは「勲章」だと思っている。知らない読者がいるかもしれないので述べれば、勲章が多くなるほど偉くなる。どうですかぁ~。
 私の場合、失敗が少ない年度は成果が低調だ。開発営業が不活発だった証拠である。自営業者をイメージすると分かりやすい。ウェブなどを通じた問い合わせや引き合いに頼る気持ちが強いと、1年があっという間に終わる。
 私は楽天的に働くことがキモだと思う。

営業担当者は顧客の前でしくじる自分を受け入れる。格好が悪いと恥じないこと。

 縮小市場や不況期における目標達成に不可欠の「開発営業」が怖くなってしまう。行きやすい所へ行き、会いやすい人と会って、お茶を濁す。が、昨今はお茶が出ない。

社長(上司)は社員(部下)の前でしくじる自分を受け入れる。面子が立たないと恥じないこと。

 営業力の強化と人材の育成に必須の「同行営業」を避けたくなってしまう。社内にこもり、机にへばりつき、忙しそうに書類に目を通す。が、老眼鏡をかけ忘れている。
 これでは社員も社長も負い目や苦手意識に凝り固まる。「負けて覚える将棋かな」。営業活動にもずばり当てはまる。挫折や敗北に神経質にならないこと!

チープな「プライド」を捨てられなければ、営業としての実力を高められない。これがもっとも成長の邪魔をする。

 いやなことを避けられる立場の社長は営業そのものをやらなくなる。概して、成績不振者は失敗する自分に失望しすぎる。

トップセールスパーソンに共通するのは、自分をおおらかに許してあげる″心の広さ″である。度量のこと。

 営業活動の現実は過酷で多様だ。だれもが迷い、悩み、苦しむ。だからこそ、そうしたときに立ち返れる「行動」の原理と原則が必要になる。それがセオリーとノウハウである。

ノウハウを「役立たず」と軽んじるかぎり、不確実で非合理な″勘頼み″のやり方から抜け出せない。

 自社の営業を元気にしたいと願うなら、トップは認識を改めよ。
 なお、私が近年気になるのが本やセミナーで事細かなノウハウを吸収したがる高学歴の若手である。それはいいとしても、実践を通じた失敗のなかで咀嚼しようとしない。知識が未消化のまま蓄積されていくので成績が伸び悩む。
 本やセミナーから与えられたノウハウへの失望は、依存と表裏の関係にある。社長(上司)に対してもそうだが、教わり癖がつかないようにする。どちらも貴重なカネと時間を費やすことになるので、よくよく慎重に判断すべきだ。

◇ウソっぱち!
 余談。私が行う企業研修では、とりわけ業績不振企業のそれでは、「うちの営業はちょっと特殊だ」といった声がよく聞こえてくる。受講アンケートにもよく書かれる。まったくのウソっぱち!

私は多くの現場に立ち会ったが、特殊な営業活動を見たことがない。それ以前に、特殊な能力のある営業担当者を見たことがない。

 確かに業種により、企業により、商品知識や技術情報が専門的ということはある。が、営業活動の基本は大きく変わらない。営業担当者はたいてい平凡なことを繰り返している。
 彼らは私の教育指導を受け入れたくないだけだ。数字が悪いのに変化を拒むとしたら、成果と成長の放棄である。辞めてもらうしかない。
 これまでの経験から、ダメな営業担当者ほどそうした感想を記すことが分かっている。

「あすから変わろうと思います」と書いておくこと(←いいね!)。


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