目標達成を確実にするために提案営業はある③
逆境の指揮官が指摘した営業の真髄とは?
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◇営業変革対談
 私は昼間はおもに教育指導の仕事に携わり、夜間はおもに出張中のホテルでデスクワークを行っている。その際につけっ放しにしているのがたいていテレビ東京、ときどきNHK総合である(いまはテレビをあまりつけない)。
 したがって″ながら視聴″になるが、そのなかでもテレビ東京の「カンブリア宮殿」という番組は何かしら考えるきっかけを与えてくれる。
 ゲストは注目の経済人。ホストは村上龍。アシスタントは小池栄子(映画『八日目の蝉』の安藤千草役はよかった)。
 以前、アサヒビールの荻田伍(おぎた・ひとし)社長が登場した。2週連続で取りあげられるのは珍しい。番組では「逆境の指揮官」と紹介された。同氏が叩き上げの営業ということもあり、内容は「営業変革対談」の様相を帯びた。
 私がとくに興味深かったのは、営業の具体的なあり方について語ったところだった。村上龍が「営業は提案型ですか」と質問した。それに対し、荻田伍が即答した。

「いや、提案型というより問題解決型でしょうね」。

 穏やかな表情は確信に満ちいていた。私は激しいショックを受けた。同氏の営業に対する理解の的確さに舌を巻いた。その真髄をずばり指摘したのだ。
 私は長年、企業研修や公開セミナーで「提案営業」の講師を務めてきた。

それは「コンサルティングセールス」の精神と「ソリューションセールス」の技術に根差している。

 同氏は番組で「役立ち」という言葉も使ったが、コンサルティングの精神そのものだ。そして、「問題解決型」はソリューションの技術そのものだ。

◇正反対の指示
 実は、私の主張と荻田伍の主張はまったく同じである(←威張ろうとしているのでない)。決定的な違いは伝え方にある。中身は同一なのに、営業関係者への指示が正反対なのだ。

和田創は「提案営業をやれ」。荻田伍は「提案型はダメ」。

 私が一貫して説いてきたのは″本物の提案営業″であり、この「本物」という言葉をしばしば用いた。なぜなら、行く先々で目の当たりにした提案営業のほとんどが自社都合に基づいた「商品推奨営業」にすぎなかった。その程度では数字を伸ばせるはずがない。
 いまや営業現場では「提案」が常套句になっており、顧客は「推奨」を言い換えたにすぎないと気づいている。何せ営業担当者はろくに相手も知らないうちにこの言葉を発する。
 「提案」が「推奨」とイコールになっている実態を踏まえ、私は企業研修や公開セミナーで「あなた方の提案営業は偽物だから、正しいやり方に変えなさい」と懸命に説いた。つまり、提案営業に対する誤解を改めさせようと眉間にしわを寄せた。

しかし、いわゆる提案営業が推奨営業になっている以上、その提案営業を否定したほうが伝え方として親切だったのでないか。

 同氏はそれをわきまえ、「提案型でなく問題解決型へ」と語ったのでなかろうか。頭の悪い私は、誤解のこびりついた「提案営業」という言葉にこだわったことになる。
 「経営トップの指示は明確でなくてならない」と、私は講演などで述べている。同氏の指示は社員に誤解の生じる余地がない。私が力んで訴えてきた急所を、同氏はさらりと語った。なんてこった。
 私の経験ではこれだけ営業を知り尽くした社長は珍しく、そのもとで働く社員は幸せなはずだ。多くの社長が「提案営業」を標榜しているが、自分がそれを正しく理解していないため、営業の数字を悪くしている。

◇提案とは?
 「提案」とは、顧客に対して「課題解決策」を投げかけることだ。おそらくそれを承知のうえで、同氏は「問題解決策」という言葉を用いた。私はそれにもショックを受けた。

「課題」よりも「問題(点)」と伝えたほうが、顧客と接触する営業担当者にはピンと来る。

 そもそも商品を売る「提案営業」はありえない。それは「推奨営業」である。かならず″役立ち″を売る。
 営業担当者が相対する顧客はさまざまな「悩みごと・苦しみごと・困りごと」を抱えている。とりわけ経済の衰退期、景気の下降期では…。

私は提案営業研修などで「顧客はNAKUKOを抱えて途方に暮れている。だから助けよ」と、涙ながらに訴えている(←オーバー)。

 そうした相手へ、問題解決の知恵を売るのだ。結果として商品がついていくにすぎない。丁寧に述べれば、問題解決策のなかに自社商品を適切に位置づける。営業担当者がノウハウの提供によりライバルと差別化を図ったことになる。これこそが「価格提示営業」から「価値提供営業」への転換である。『社長虎の巻 結果を出せない営業はこう立て直す』で述べている。

商品という「ハード」が横並びになるほど、営業活動では「ソフト」というノウハウが競争優位を決する。

 私が念を押すまでもなく、問題解決策の提示で最重要なのは「問題」を突き止めることだ。それを外しては解決策そのものに価値がない。

″本物の提案営業″では、「提案」というアウトプットでなく、「顧客理解」というインプットを重んじる。

 営業担当者が相手を掘り下げてつかんでいなければ、役立ちを叶えられるはずがない。法人顧客なら、経営や業務になる。個人顧客なら、人生や生活になる。
「顧客理解」という言葉はきわめてあいまいだ。営業担当者はちょっと知ったくらいで、その言葉を使う。問題の明確化がなされている場合に限る。また、「役立ち」という言葉を使う。問題解決への貢献が認められる場合に限る。このほかには安易に用いてならない。

″本物の提案営業″が根づいているところは優良企業である。

 私は企業研修の講師として、クライアントから指定された有料の研修専用施設をたびたび訪れた。元は、ある大手企業が社員研修施設としていた。それを公開し、ビジネスとして運営している。同社は商売がうまい。
 この施設のエントランスに、当日行われる研修のテーマとルームナンバーが一覧で表示されている。同社はしょっちゅう「提案営業研修」を行っていた。私は、グループ企業を含め、いったいどれくらい提案営業を学ばせているのだろうと、半ばあきれた。
 同社のレベルの高さは有名である。

「ライバルが同社の営業マンや営業車両を見かけると逃げ出す」。

 このエピソードはあながちオーバーでないだろう。
 私のおもな仕事は社員に提案営業を習得させ、それにより売り上げの増進、業績の向上を実現することだ。最終的にクライアントを勝ち組へ誘導する。
 そのために「″本物の提案営業″とは…」と説くのと、「提案型はやめよ…」と説くのと、いずれが効果的だろう。私は「カンブリア宮殿」の視聴後に「提案営業」という言葉を使うことをやめようかとも考えた。しかし、途中で変えると、それはそれで混乱が起こりそうなので踏み切れなかった。いまだに悩ましい。

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