御社の営業はどれほど頭で稼いでいるか⑤
正社員の営業としての「存在意義」とは
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◇営業の使命
 売れる時代ではあまり目立たなくても、売れない時代では売ることのできる「営業」を確立している企業とそうでない企業は、業績の格差が拡大する一方である。バブル崩壊後、一握りとはいえ、右肩下がりの経済をはねのけてきた企業もある。業種や規模は問わない。

当然ながら、営業は「収益獲得」の入口となる。

 ここが弱くては、会社の発展どころか維持さえ覚つかない。社長は社員に対し、あくまでも正社員としての営業の使命を明らかにしたうえで、営業力の強化を推し進めることが肝要である。そこで、営業の「存在意義」について述べよう。
 さて、商品は差異が縮小し、ほぼ横並びになった。セールストークを取りあげれば、営業担当者がその「優位的特徴」を前面に押し出し、顧客を説き伏せるやり方は効力を失った。優位的特徴とは、セリングポイントのこと。例を示すほうが分かりやすいだろう。
 私は以前、日産のセールスマンから「セレナはステップが低い」と言われた。それを疑っていないが、「ノアもステップワゴンも低い」と返した。いまどき「よっこらしょ」と乗る1BOX(ミニバン)はない。その後も「スライドドアの開口部が広い」「バックドアの開口部が低くて広い」などのセリングポイントをかまされた。
 「顧客第一」の正反対、「自社第一」にいまだに徹している。

自動車は化石並みのセールストークを中心とした営業活動から抜け出せない業種の一つだ。

 国内市場で圧勝を収めるトヨタをはじめ、各社とも実態に変わりはない。
 なぜ、「ご高齢のお母さまが乗り降りの際に足腰のご負担がいくらかでも和らぐと、私もうれしいです」と言ってくれなかったのか。私は失望を通り越し、怒りを覚えた。
話が脱線したので、本題に戻そう。
 さらに、「成熟市場?飽和市場?縮小市場」と移ろい、顧客の引き合いが減りつづける現実が追い討ちをかける。営業担当者は手垢にまみれた常識を捨て、斬新で柔軟な発想により長期に及ぶ困難を打ち破っていかなければならない。

◇成績向上の秘訣
私は企業研修などで、営業担当者がライバルと比較し、自社の「商品力」をどう評価しているかを確かめたく、「強い」「横並び」「弱い」のいずれかに手を挙げてもらっている。

多くの企業で、営業担当者の8~9割は「横並び」と答える。

 つまり、「自社商品とライバル商品はおおよそ同じ」という感覚を持っているのだ。全員がそう答える企業も珍しくない。残りはたいてい「弱い」に手を挙げる。
 営業担当者は売り上げづくりに苦労しているせいか、それともその責任を押しつけたいせいか、自社商品に対する評価がきわめて厳しい。
 実は、顧客を含め、商品は横並びという認識にこそ成績を向上させる秘訣が隠されている。

そう、商品を売ってならない。

 なぜか? 同じものを売ろうとする営業活動は苦労ばかり多くて、成果がさっぱり上がらない。この程度の話なら、気の利いた子どもは納得する。しかし、きちんと理解する営業担当者はまれである。
 私が主宰したNPO法人営業実践大学では、トップセールスパーソンをしばしばゲストに招いた。結局、商品を売っている方はいなかった。商品を売ろうとすれば、よくて並の成績だ。大半の営業担当者は「頭」を使おうとせず、売り込みへ走る。

営業活動とは、商品本来の価値に営業担当者が「知恵」を付加し、ライバルと差別化を図る行為である。

 具体的には、商品を複合して「システム」に構築し、顧客へ投げかける。商品には、ハードやソフト、サービスがある。

ここでいうシステムとは、「課題解決の仕組み」のこと。

 役立ちの中身に相当する。これが、私がこだわる″本物の提案営業″の核心である。逆に述べたほうが読者に分かりやすいかもしれない。

そうした差別化を図れないと、かならず顧客の値引き要求に泣かされる。ライバルとの値引き競争に巻き込まれる。

 それは、社長が営業担当者に同行し、商談を観察するなら、すぐに腑に落ちる。
 念を押せば、提案営業は値引きを避けるために行う。もしくは大幅に和らげるために行う。そうなっていないとしたら、提案営業と呼べる代物でない。

◇快進撃の始まり

商品が横並びという状況は、営業の″出番到来″を意味する。

 営業担当者としてやり甲斐が大きく、おのずと燃える。
 ある大手企業では、新社長が就任して「商品本位制から営業本位制へ。」をスローガンに掲げた。遠い昔の成長は「商品力」に依存していたとの判断であり、この先の成長は「営業力」で実現するほかにないとの決意を込めた。私は、時代の変化を見据えた名言だと思う。
 長年にわたる行き詰まりが深刻だった同社はここから快進撃を始めた。

概して、企業は商品力が強いと、営業力が弱い。商品力が弱いと、営業力が強い。

 両方とも強いと勝ちっ放しになり、両方とも弱いとつぶれる。同社は結局、社長を筆頭とした全員の努力の末に両方とも強くなった。素晴らしい業績を残しているのは当然である。テレビ東京の「カンブリア宮殿」という番組に取りあげられた。

営業担当者は営業力で売ることが仕事なのに、値引きで売れる商談に甘んじる。すごいじゃないですかぁ~。

 市場競争の激化につれ、値引き頼みのクロージングが蔓延している。これでは製造部門や間接部門の血のにじむ「コストダウン」の努力を一発で吹き飛ばす。
 実は、商談を決めるのは簡単である。顧客が購入(発注)する水準まで価格を引き下げればよい。見るからに成績の悪そうなクルマのセールスマンがしばしばやっている。しかし、それで話がまとまったとしても、値引きで売れたのであって、営業力で売ったわけでない。
 この両者の区分けをきちんと行うことが勝ち組への入口となる。会社としてここをあいまいにしては、売り上げが立っても利益が出ない不毛の商談が横行してしまう。

私の経験では、値引きを禁じると営業力が高まる。

 値引きの厳しい会社で働く営業担当者は幸せである。それ以前に、商品力の弱い会社で働く営業担当者は恵まれている。己の営業力を磨くほかになく、覚悟が決まる。
 すべての営業関係者は、商品がほぼ横並びの今日こそ、正社員としての存在意義を示せ。

すなわち、自分に強い「誇り」を持ち、顧客に魅力的な「提案」を行い、自社に適正な「利益」をもたらす。

 単一の商品を性急に推奨するやり方は通用しない。付加価値の創出を通じ、営業活動そのものでライバルと差別化を図ること! 肝に銘じるべきだ。
 私は、儲かる営業活動を行っている会社がつぶれたという話を聞いたことがない。もちろん、経営がデタラメを行わない限りだ。

売れない時代では、企業の生き残りは第一に「営業」の優劣で決定づけられる。社長よ、営業を最重視しているか?

 日本経済は2013年以降、回復基調が鮮明になった。東京五輪開催の2020年まで好調が続くかもしれない。が、その途中で、あるいはその直後に、地獄に突き落とされないとも限らない。長期的なトレンドとして、縮小へ向かうことは間違いないだろう。
 営業担当者が置かれた環境は非常に苛酷だ。企業は残すべき社員の検討を急ぐ。顧客はつきあうべき取引先の見直しに動く。

営業担当者は正社員の存在意義に則って「市場価値」を高めよ。

 それは、自社と顧客の双方で吹き荒れる″選別の嵐″から己の身を守ることにつながる。営業職に就く社員の数は、1994年前後のピークの3分の2を割り込んでいる。

◇低迷・不振の原因
 企業研修でなくても私は売り上げづくりに苦しむ営業担当者と接する機会が多い。それとなく水を差し向けると、彼らは「先生、うちの商品なんてライバルとほとんど変わりませんよ」と嘆く。「そうなると営業活動で何が大事になりますか」と私。「もちろん差別化でしょう」と彼ら。

そう答える営業担当者が営業活動で商品説明を行っている。差別化の放棄である。好んで値引き競争の土俵に上る。

社長は社員がどれほど滅茶苦茶なことをやっているか、実態を知っているのだろうか。

営業担当者のセールストークがまったくなっていない。愛情を込め、顧客について語るだけなのに…。

 クルマのセールスマンを思い起こすと分かりやすいが、カタログ(パンフレット)の文章をなぞって声に変えているにすぎない。仕事と呼べるレベルに達していないが、笑ってばかりいられない。業種や規模を問わず、大半の営業担当者が普段やっていることだ。
 私が近年、「セールストーク研修 ~横並びの商品を売る秘訣」に力を入れる理由である。この研修ではレクチャー(講義)を抑え、ワークショップとロールプレイに重きを置く。コツは決して難しくない。しかし、営業担当者は?化石トーク″が骨の髄まで染みついており、それを捨て去るには「演習」と「訓練」が欠かせないからだ。
 「営業とは、顧客に愛を伝えること」という真理がなぜ飲み込めないのだろう。ちなみに、「顧客第一」を掲げる企業が絶対にやってならないのは「売るための勉強」、すなわち「自社第一」の演習や訓練である。私は営業研修のあまりのひどさにあきれてきた。機会があれば、『愛情トークの達人』という本を出したいと考えている。
 経済環境や市場環境などの「外部要因」は業種が同じならどこでも、企業(事業)が同じならだれでも同じである。しかし、企業業績や営業成績に著しい開きが生じる。
 数字の低迷や不振はたまたまもたらされたのでなく、「原因」があってのことだ。私は、この原因を本気で突き止めようとする社長にほとんど会っていない。
 世の中の社長はたいてい「結果」がよければOKである。しかし、それでは景気の変動に翻弄されつづける。乗り物酔いも限度を超せば、生きた心地がしない。

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