トップは「買ってくれ」を禁句にせよ④
営業がマーケティングを誘導せよ
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◇企業の命運
 「いまの事業や商品に収益の伸びる余地がない」。企業規模の縮小に陥り、そこから抜け出せない社長が抱える切実な悩みだ。それは今後の経営への不安を募らせる。
 この問題には「営業」と「マーケティング」が密接に絡む。社長が営業活動を変えられたかどうかで業績の明暗、いや企業の命運が分かれた事例を紹介しよう。
 私はクライアントで力説している。「提案営業を導入するとは、営業手法を転換するに留まらない。営業活動に革命を起こす営業変革の取り組みである」と。

さらに、「それだけでない。マーケティング改革や事業改革、経営改革につながる」と。

 私が「提案営業研修標準講座(2日×4回)」を引き受ける条件として、第1回の2日間に限って経営層の立ち会いを義務づけている大きな理由の一つである。

提案営業では、市場のナマの声を社内に突きつけ、凝り固まったそれらを揺さ振り、活性化する効用が大きい。

 儲かるマーケティングのヒントは企業の外部にある。まして「顧客が主役の時代」である。その企業を儲けさせるか儲けさせないかは、顧客が決める。

自社の生殺与奪の権を握る顧客と頻繁に接触する営業担当者がマーケティングを誘導していくのが正解だろう。

 さて、土木建設業は公共事業予算の伸びを背景に膨張してきた。バブル崩壊後、それが減少に転じると、業績が悪化の一途をたどる。なかでも地域ゼネコンが厳しい。あわてて官需から民需へ、土木事業から建設事業へ収益の軸足を移そうとするが、目論見どおりにいかない。
 ここでは、困難に直面した2社が取った対応を述べる。おそらく21世紀初頭の事例である。しかし、いまだに貴重な示唆と有益なヒントを与えてくれる。

◇建設会社の事例
 1社は建設会社で、官需に加えて民需も手がけてきた。
 社長は名門のプライドをかけ、社内に「雇用を守る」とのメッセージを発した。私の経験では、こうしたときには経営がひっ迫している。社員の動揺を抑え、全社一丸で難局を乗り切ろうとした。結局、業績低下に歯止めをかけられず、初のリストラに踏み切った。
 しかし、首都圏での受注が落ち込んだ大手ゼネコンが地方都市をターゲットにし、それまで見向きもしなかった規模の物件に手を出すようになった。同社は地元でのいわゆる「特命」が激減し、おいしい仕事を相次いで失った。
 焦る社長は「箱物(ハコモノ)を取ってこい」と、営業担当者に猛烈なハッパをかけた。従来のやり方で成果を上げられるはずがない。この先も「縮小均衡」を繰り返して消え去るか、飲み込まれるのでなかろうか。

凋落する名門企業に共通するのは無策である。環境適応の知恵と勇気を欠き、自らを変えられない。

 同社は何回かのリストラにより生き残っている。かつて隆盛を誇った面影はない。同社に気の毒と思うが、もう1社と比較したい。

◇土木建設会社の事例
 1社は土木建設会社で、官需を中心に手がけてきた。
 同業者が民需へのシフトを加速させるなか、同社は官需を大切にした。それがあるから地域社会で信頼が得られ、民需も取り込めると…。ただし、社長は発想を大胆に転換した。

営業担当者が物件の″発注窓口″に顔を出すことを禁じたのだ。

 営業の本性として、買い手と会うとつい「買ってくれ」と言いたくなる。しかし、そうしたやり方では、先の事例のように物件の減少につれて地獄を味わう。

自社都合に固まり、自社利益にこだわることで失うものがいかに大きいか、低迷を抜け出せない社長は反省すべきだ。

 何より市場の変化に気づかず、新たに出現する「商機」を見逃してしまう。商機とは、商売の機会、ビジネスチャンスのこと。
 では、社長は営業担当者をどこへ行かせたか? どうか読者も考えてほしい。1分で答を思いつくなら、頭の柔軟性が素晴らしい!
答を明かそう。

役所にとり急増が頭痛の種になっていた、住民からの?苦情窓口″に足を運ぶように改めた。

 そして、「河川(下水)が臭う」「緑地(公園)が荒れている」「**施設(設備)は高齢者の利用が危ない」といった、住民が日々の暮らしで感じている不満や不便、不快、不安などの声を集めさせた。
 営業担当者はそれら「不」の付く情報を踏まえ、役所に解決策を投げかける「提案営業」へ切り替えた。それも2段階で進める。
 1.部分的かつ試験的な取り組みを提案する。
 そして、実施と検証を通じ、技術やノウハウを蓄積する。これは実費程度にする。
 2.全体的かつ本格的な取り組みを提案する。
 この時点で競争相手が不在なので「1社入札」になる。これはビジネスである。しかも、段階的・発展的な取り組みにつながる可能性がある。
 社長が考え抜いたうえで社員に命じた。覚悟がすごいと、私は思う。

ついに同社は住民の″ホームドクター″の地位を獲得した。

 住民に喜ばれただけでない。住民の行政に対する評価も高まるので、役所に喜ばれた。
 結局、顧客である「役所」とその顧客である「住民」の双方から、大きな共感と信頼を寄せられたのだ。同社は顧客の顧客まで取り込むことにより、収益の幅を広げた。

ハード頼みの土木建設業から、ソフトやサービスを絡めた「環境支援業」へ転換して市民権を得て、地域社会に根を張る。

 ここでいう「ソフト」はノウハウなどの知恵が含まれる。「サービス」は売上額が大きくなくても利益率が高く、しかも収益の安定性と継続性を望める。
 発注窓口から苦情窓口へ。営業担当者の訪問先・面会先を改めることで業績の拡大どころか、商品、事業、さらに会社の劇的な変革を成し遂げた。
 私はいまだに土木建設業で「物件」という言葉を耳にし、その古さにあきれる。

私の指導経験では、「案件」という言葉に改めないと、営業担当者に染みついたハコ売り(モノ売り)発想を変えられない。

 同社は社長命令をきっかけに物件が案件に変わっていった。

◇新商品・新事業の芽
 鋭い読者なら、お気づきかもしれない。
 この事例では、見事に「提案が商品」になっている。
 私が行う「提案営業研修標準講座(2日×4回)」では、受講者が優良顧客に大口商談を仕掛ける。第3回から第4回にかけて提案書をまとめあげ、プレゼンテーションに持ち込む。
 ある素材メーカーで、社長が研修終了後に全員の提案書に目を通した。

数名の提案内容に″類似性″が見つかった。

 同社は、素材を納めてビジネスが終わる。ところが、その回収まで請け負う循環型のビジネスモデルを提案していた。素材は価格変動が大きく、それがいくらかでも抑えられるので、顧客はメリットが大きい。しかも、提案先が同社の重要顧客に限られていた。

社長は営業担当者が有望な″金脈″を探り当てたと感じた。

 これこそが会社として育成すべき新たな商品や事業の芽となる。結局、同社は顧客とじかに触れる営業担当者が儲かるマーケティングへ誘導した。
 私は当時、あちこちの会社で「新規事業募集」のポスターを見かけた。既存事業で会社が回らない、社員を養えないということだろう。やがて結構な「賞金」が付きはじめた。そうしたポスターをぺたぺた貼るのは、会社がつぶれかかっているみたいで見苦しい。
 私は、主役の顧客に歩み寄り、寄り添うようにして提案する営業担当者の″役立ちの知恵″に期待するほうがはるかに早くて確実だと考える。私が教育指導に心血を注いできた″本物の提案営業″の重大な効用の一つだ。

「自社を信じない。顧客を信じる。」。儲かるところへは、顧客に連れていってもらう。

 社内で知恵を絞ろうとする、机上で知恵を絞ろうとするから、ろくなものが出てこない。もともと悪い頭を悩ませてならない。

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