トップは「買ってくれ」を禁句にせよ③
トップは「買ってくれ」を禁句にせよ
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◇営業変革の成功事例
 豊かな社会である。
 1951年(昭和26年)生まれの私は、今日の日本の状況をまったく想像できなかった。直江津小学校(新潟県)時代、遊びから戻り、水道の蛇口に顔をひねって口をつけ、水をがぶがぶ飲んだ。渇きと空腹がいやされた。私の少し前の世代は井戸水だろう。
 さて・・・。

成熟市場では、顧客にとり商品の購入は目的でなく手段にすぎない。飽和市場では、商品の既購入者が営業活動の対象となる。

 皆がたいてい知っているが、皆がたいてい気づいていない。
 この事実は何を意味するか。むろん営業活動では「買ってくれ」を封印する。すでに買ってしまった顧客に対し、「買ってくれ」というアプローチは成り立たない。「間に合っている」と邪険にあしらわれる。

営業担当者の圧倒的大多数はテレアポや飛び込みで商品説明をぶちかまし、顧客にわざわざ断らせている。

 これでは自分自身でテレアポや飛び込みを苦痛の連続にしてしまう。目標予算に届きそうもないと思っていながら、それをやりもしないのはいやだからだ。間違いない。

営業活動の入口で脱落することになり、問題外である。

 「買ってくれ」。この言葉を社員や部下に禁止する社長や営業管理者が現れ、しかも業績を飛躍的に伸ばしている。大胆な「営業変革」に成功した事例について紹介しよう。

◇理美容メーカーの事例
 私の記憶があいまいになっているが、昔、経済誌で取りあげられた理美容関連のメーカーの事例である。同社は売り上げの低下に見舞われたお陰で、平常時には思いつかない改革を断行することができた。
 業績は長らく順調に伸びてきたが、バブル崩壊後に横這いとなり、やがて落ちはじめた。社長は原因を探るうちに「営業に問題がある」と気づいた。そこで、関係者を集めて命令を出した。「あすの営業活動から、買ってくださいという言葉を使ってならない」。
 「買ってくれ」とは、おもに商品説明のこと。実際、世の中の営業担当者は顧客に買ってほしくて商品説明を行っている。

「その日を境に売り上げはどう推移したか」。

 私が企業研修などで投げかける質問である。受講者は講義の流れから″読み″を働かせる。「直感で結構ですから…」と私。すると、5~8割は「上がった」、残りの大半は「横這い」、ごく一部は「下がった」と答える。意外な反応だ。事実を明かそう。

「売り上げはがくっと落ちた」。

 なぜか。営業担当者がいつも顧客に「買ってくれ」と言っていたからだ。そうすることが自分の仕事だと思い込んでいたのに、社長から完全に否定された。その戸惑いが売り上げの急落につながった。
 ところが、売り上げが落ちっ放しでは、経済誌に取りあげられるはずがない。同社は2年後に業績が底を打ち、見事にV字回復を遂げた。この事実は何を意味するか。「営業変革」に2年の歳月を要したということである。
 結局、同社の営業活動はどう変わったか。営業担当者は「買ってくれ」と迫れない。

顧客となるサロンに対し、製品の効果的な利用方法を助言する「コンサルティングセールス」へ転換した。

 会心の営業変革を果たした事例である。なお、荒療治なので、余裕のない企業はマネしないことだ。業績が回復する前に、存在が消滅する危険性をはらむ。

◇アパレルメーカーの事例
 私が講師を務める公開セミナー「提案営業3日間コース」に11名を送り込んできた無名の企業の事例である。おそらく2002年か2003年のこと。参加者が集まらない、どん底景気の頃である。私も主催者もおおいに助かった。
 同社は地方企業なので受講料のほか、交通費と宿泊費がかかる。また、平日の開催なので仕事を休まざるをえず、3日分の売り上げを失う。参加する営業担当者と派遣する企業にとり負担はきわめて重い。
 「一言、礼を述べよう」。私は責任者と接触し、アパレルメーカーと知った。中国製品の流入やディスカウンターの台頭により衣料品の「価格破壊」が進展し、一部の高級ブランドを除いて低価格品しか売れない。同社のような中間価格帯のメーカーにとり市場環境は地獄である。にもかかわらず業績は右肩上がりとのこと。
 社長はデザイナー出身だが、営業をよく理解しており、会社ぐるみで積極的に推進している。創業が比較的新しいため、彼らは既存顧客の訪問と新規顧客の開拓を並行している。
 先の事例と同様に、社長命令で「買ってください」を禁止されている。同社は営業活動の対象が衣料品を扱う小売店となる。これには量販店も含まれる。

営業担当者は「仕入れてください」「置いてください」と迫れない。

 社長からの指示はわずか2つである。飛び込んだなら、オーナーや店長と面会する。

第1に、ライバル商品が売れるよう、効果的な「販売方法」を助言せよ。第2に、客が店に入るよう、効果的な「集客方法」を助言せよ。

 読者は信じられないかもしれないが、営業担当者に「こうすべき」と明確な指示を与える社長はまれである。営業管理者も同じ。これに関しては、『社長虎の巻 結果を出せない営業はこう立て直す』で詳しく述べている。

自分が「結果責任」を取りたくないというのも一因だが、どのような指示を与えればよいか分からないというのが主因である。

 「営業への正しい理解」を持っていないからであり、もっと真剣に学ぶべきだ。
 私は「買ってください(仕入れてください。置いてください)と、まったく口にしないのですか」と食い下がった。意地悪だから嫌われる。
 この責任者は「客先(店舗)を退く直前に切り出します」と答えた。「実は、当社にこうした商品がございます。これらを売り場にこのように導入していただけますと、より効果的な販売と集客が実現します」と…。

自社の商品をあくまで顧客の販売増進や集客増加の手段と位置づけ、帰り際にさらっと触れる。

 流通営業において初歩的なセオリーといえよう。社長や営業管理者は、社員や部下に「買ってくれ」を禁句にしてはいかが。

営業マンにさよならすると商談はかならず後回しになる。あばよっ!

 同社は営業活動でライバル商品の販売方法と店舗の集客方法を助言する。そして、最後の最後に自社商品の貢献を示唆する。
 前者が顧客への「ボランティア(奉仕)」、後者が自社の「ビジネス(商売)」。

ボランティア8割⇒ビジネス2割。これが「顧客第一」の営業活動。

 この順序を逆にするのが「自社第一」の営業活動。現実は逆どころか、ビジネスだけでボランティアはなし。あまりの惨状に目を覆いたくなる。

◇空調メーカーの事例
 もう一つ、空調関連のメーカーの事例である。本部長が同様の営業変革を断行した。営業担当者が量販店に製品説明を行うことを禁じた。

それを徹底させるには製品カタログを取りあげるのが何より。

 同社は、営業担当者が責任者とやり取りし、売り場全体の販売計画をまとめるように営業活動を改めた。そのための学習機会を設けたのは言うまでもない。確か1年でトップシェアに踊り出るとともに、長年悩まされた赤字体質を抜け出した。
 この取り組みには感動的なエピソードが含まれるが、読者にお伝えできないのが残念である。
 以上。社長や営業統轄役員、営業部門長・拠点長が営業担当者に「買ってくれ」を封印させることにより、劇的な業績回復・拡大を実現した事例は珍しくない。

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