トップは「買ってくれ」を禁句にせよ②
赤字や不振に浸かる社長は″健忘症″である
Copyright ©2015 by Sou Wada
 
◇本部長の猛反発
 前節「御社の営業はちゃんと機能しているか」に関わる話を続けよう。私は2006年頃、東京の中堅企業に「提案営業研修8日間コース(2日×4回)」に伺った。
 和田創研は本コースを引き受ける条件として、第1回の2日間に限って社長を含め、営業に関わる取締役の受講を義務づけている。目指すべき営業についてコンセンサス(合意)を形成するためだ。大手企業でも原則は同じ。
 同社の場合は、営業のあり方に強い危機感を抱いた社長の意向だった。ところが、いざ研修が始まると、営業を預かる本部長クラスが猛反発した。

私の教育指導は、単なる「顔出し⇒御用聞き⇒見積書対応」を否定する内容である。

 長年そう導いてきたのが本部長クラスだった。私は彼らから嫌味たっぷりに「当社は営業マンの数を増やした分だけ売り上げが伸びる」と言われた。笑っちゃう。「おまえは余計なことをするな」という意味である。
 営業部門と営業拠点に絶大な権力を振るう古参の責任者が足並みを揃えて抵抗しては、営業担当者が動揺して研修になりやしない。まして本コースのカリキュラムは、各自が職場で取り組む課題が大きな比重を占めている。
 それから3年近く経った頃、私が都心の幹線道路で信号待ちをしているとき、30歳前後のビジネスマンがにこにこしながら話しかけてきた。私は顔に見覚えがなかったが、同社で行った提案営業研修を受講した営業マンだった。「先生があのときにおっしゃったとおり、お陰さまで悪くなりました」。
 読者はお気づきと思うが、同社は研修当時、世界的な好況の恩恵を受けており、顧客の引き合いが活発だった。数字は当然、勢いがある。

それを自分たちの実力と勘違いし、「御用聞き営業で十分」と本気で考える幹部が営業を牛耳っていた。

 やがて、同社は当該事業からの撤退に追い込まれた。

◇大差のない社長
 この事例を笑うことができない。それと大差のない社長がいっぱいいる。

きょうの販売や受注が増えた途端、きのうまでの苦悩をケロッと忘れてしまう。

 営業再建屋の私のもとには、業績不振にあえぐ社長から切羽詰まったメールなどが一方的に寄せられる。悲痛な叫びや深刻な状況が綴られている。
 私は長い経験から、むろん真に受けていない。だれかに愚痴を聞いてほしいといった類である。唐突な連絡は景気が陰りはじめると増える。
 しかし、たまたま危機を乗り切ったり、当座の数字が改善したりすると、連絡がそれきり途絶える。人騒がせであり、いい迷惑である。

赤字や不振に浸かる会社の社長はたいてい″健忘症″である。

 こうした社長は危機感が強いわけでなく、あたふたしているだけだ。業績の起伏にストレートに反応し、「自信喪失」と「自信過剰」の状態を交互に繰り返している。

景気に翻弄される社長は客観的に自社の営業を検証し、長期的に自社の営業を定位することができない。行き当たりばったり。

 販売や受注が好調な状態がちょっと続くと、やけに自信を持つ。

◇私の関心
 私は、猫の手を借りても売り上げを立てられる好況期の営業活動に関心がない。
「おまえは書斎にアメショーを飼っているでないか」と叱られそうだが、そのためでない。赤裸々な肉球と向かい合い、人生に想いを馳せるためである。

強い向かい風が行く手をはばむなかで、いかに数字をつくるか。

 これに尽きる。なぜなら、不況期にやっていける実力を培っておけば、将来にわたり安泰である。少なくともあたふたしなくて済む。現実はどうか? いいときにしか備えられないのに、皆が浮かれて近所のスナックへ行ってしまう。盛り場のクラブも忘れるな。

好況期に鍛錬を怠った会社や営業は、風向きが変わった途端に風邪を引く。それどころか命にかかわる病に冒される。

 今日、どの企業も市場でライバルと激しくぶつかり合う。国内はもとより、新興国をはじめ、世界の強豪とぎりぎりの戦いを繰り広げている。そして、シェアや地位が大きく動くのが不況期である。

ぶっちぎりを目指す企業にとり、競争原理がシビアに働く不況期は、待ち望んだチャンスを迎えたことになる。

 顧客を奪い、売り上げを奪うなら、ライバルの体力を一気に奪える。となると、たやすくライバルを飲み込める。経営常識となった感があるが、「市場は、乗り合いバス型から一人乗りバイク型へ。」「勝者がすべてを手にする。」。
 例えば、製造業。既存業界では、新たに設備投資を行っても採算を取るのが難しい。白旗をあげたライバルの生産設備を、一部の優れた社員とともに引き受けるのが賢い。ときに″ただ同然″で手に入れられる。

私は、とくに市場規模の縮小が進む内需中心の業界で、そうした勝ち組を目の当たりにしてきた。

 2社で大きなシェアを占めてきた専門分野の出版社を経営する知人は、ライバルの消滅により顧客(読者)が流れ込むという「残存者利益」を享受した。
 例えば、物流業界。創業社長が私に、「問屋や取次の代わりはうまみがある」と明かした。「顧客へのソリューションを謳いながら、現実には納品業務くらいしかやっていない。運ぶだけなら、うちのほうが断然強い」。
 例えば、管理業界。営業統括役員が私に、「地方の優良顧客を狙い打ちしている」と言い放った。「地元同士という理由で、価格や条件に目をつぶった取り引きが温存されている」とのことで、「首都圏で戦ってきた我々にすれば、とてもおいしい」。
 例えば、卸業界。オーナー社長が新エリアへの進出を断行し、当地のライバルの優良顧客に絞って切り崩した。経営が悪化したライバルが「営業は御社に任せるので、せめて物流は当社に残してほしい」と泣きついてきた。顧客を丸ごといただき、しかも物流センターをつくらなくてすんだ・・・。
 社長が好況期に備えを怠らなければ、不況期は願ってもない成長・発展のチャンスとなる。私は、松下電器産業(現パナソニック)の創業者、松下幸之助(まつした・こうのすけ)のこの言葉が大好きである。

「好況よし。不況さらによし。」。

 社長はゆとりを持ってそう言える経営、そして営業に再生してほしい。
 なお、私はこの言葉が発せられた時代背景や経営環境、そして意図をまったく知らないわけでない。しかし、こうした解釈で構わないと考えている。松下幸之助の肝っ玉はそれほど小さくない。

和田創研ホームページ 和田創 library online TOP
 和田創研
copyright©2015 WADASOUKEN Co.,Ltd all rights reserved.