第12講
提案営業の成果向上
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 本講座の締めくくりに、提案営業を実践して十二分な成果を上げるうえで、経営者や管理者が留意すべき点を補足説明しよう。営業マンの能力の強化とともに、負担の軽減が決め手となる。企業や部門は営業マンの提案活動を制度的に支援することだ。
この記事は、私が「提案営業研修」で用いてきた事前課題図書に収めた原稿です。私の営業本の第一作『提案営業成功の法則』(日本実業出版社)に若干の増補を行ったものです。 1996年の刊行から相当な歳月が経ちましたが、いまだに通用する内容です。「提案営業」に関する基礎知識が得られると考えて掲載しました。
1.営業マンの提案活動を支援
 ここまで提案営業に取り組もうとする営業マンのスキルアップに主眼を置いて話を進めてきた。本講では視点を変え、企業や部門として営業マンの提案活動をどのように支援すべきかについて説明する。
 提案営業の現実はきわめて厳しい。企業や部門の方針として全力で取り組んでいるところでも、顕著な成果を上げている例は数えるほどである。経営者や管理者は売り上げ向上の特効薬と期待し、提案営業の導入と推進に躍起になる。だが、旗を振るのは簡単でも、それについていく営業マンのほうは大変である。提案営業はそもそも高度な営業方法であり、営業マンに知恵の発揮を要求するからだ。
 提案営業の実践では、営業マンが意識だけ変わったり知識だけ持っていても不十分といえる。具体的なスキルを身につけていることが条件である。とりわけネックになるのは提案書の作成である。長らく行動力で勝負してきた営業マンにとって、もっとも不得手な部分であろう。

2.提案営業と提案型営業を区別
 私は提案営業と提案型営業を厳密に区別している。営業マンが提案書というツールを用いて行う方法を「提案営業」と称する。一方、営業マンが単に口頭ですませる方法を「提案型営業」と呼ぶ。提案書を「プロポーザル」とも言うが、本講座で解説したのは「プロポーザルセールス」を実践するためのノウハウである。
 今後、市場環境が厳しさを増すにつれ、提案書を用いた提案営業の重要性が一段と高まる。大口需要を新規で掘り起こしたりライバルから奪い取るには、提案営業で活路を見出さざるをえない。提案書を作成せずに、規模の大きい商談は成立しないのである。

3.成果不振の原因は何か?
 提案営業に取り組んでみたものの、さっぱり成果が上がらないとこぼす経営者や管理者は多い。やがて提案営業自体の有効性に疑問や不信を抱きはじめる。これははなはだしい誤解である。彼らは成果不振の原因を真剣に探ったことがあるのだろうか…。
 旗を振るだけの上司のもと、現場の営業マンはだれ一人として提案営業をやっていないという事実に突き当たるはずだ。提案営業を実践していない以上、その成果が上がらないのは当然の話である。
 そこで、営業マンになぜ提案営業をやらないのかと尋ねると、忙しくて時間がないという答えが返ってくる。さらに、腹を割ってとことん話し合うと、必要性は感じているがどう進めたらよいか分からないという本音が出てくる。営業マンが提案営業を実践しない理由ははっきりしている。提案営業ができないのである。

4.成果向上に両輪が不可欠
 提案営業を導入し推進して成果を上げているケースでは、営業マン一人ひとりのスキルアップと、企業や部門のバックアップの両輪がかならずそろっている(図12-1)。営業マンの能力の強化とともに、負担の軽減が決め手となる。


 経営者や管理者は、提案営業に取り組む営業マンの苦労と苦悩をまったく理解しようとしない。営業マンは必要性を痛感しても実践できないから、おおいに悩むのである。
 提案営業の安易な導入と推進は、営業の現場を大混乱に落とし入れ、営業マンに強いストレスを押しつけるという最悪の結果に終わる。結局、経営者や管理者が提案営業の本質を理解していないことが、成果不振の根本的な原因である。


5.提案営業の環境づくり
 本講座の締めくくりとして、組織ぐるみで提案営業を成功へ導く効果的な取り組みについて考えてみよう。経営者や管理者が何の環境づくりもせずにいきなり提案営業の旗を振ったところで、成果が上がらないばかりか、売り上げを落とす恐れもある。
 提案営業を導入し推進するうえで最低限整えておくべき環境は、マニュアルの提供、研修の実施、プロジェクトの運営の3点である。それは営業マンの提案活動を制度的に支援することにほかならない。
(1)マニュアルの提供
 提案営業では、足で稼ぐ受注型から頭で稼ぐ創注型へ営業活動を転換させる。営業マンに新しい営業方法を行わせるには、自社にふさわしいノウハウを確立し、それを「営業マニュアル」として提供する。
 ところが、大半の企業はマニュアルを用意しておらず、そのことを不思議にさえ思っていない。これは“売る技術”に対する認識の低さを端的に物語るものだ。営業方法を科学的に追求する習慣がまったくないのである。
 残念ながら営業部門はこれまで生産部門に頼り切ってきた。しかし、作る技術が横並びになりつつある今日、売る技術による差別化が企業戦略の中心にならなければならない。21世紀とは、営業部門が生産部門に恩返しする時代のことである。
 提案営業の成功にとって、自社独自の売る技術を標準化したマニュアルが不可欠だ。
①商品知識と売る技術:和田創研では、企業から営業マニュアルの作成を受託する機会が多い。その際に「顧客満足度調査」の実施をすすめている。営業活動に対する顧客の率直な評価を把握することから始めるわけである。商談のあり方や進め方における問題点を探り、改善と変革の目安とする。さらに、この調査結果を営業マニュアルの作成へフィードバックする。
 顧客の不満がしばしば集中するのは、営業マンの商品知識、情報力、提案力に対してである(図12-2)。ちなみに情報力と提案力は、合わせて“売る技術”と考えられる。ここから、自分のことを理解し求愛してほしいと望んでいる顧客の姿が浮き彫りになる。


 経営者や管理者は、営業マンの商品知識があまりにお粗末だと指摘する。しかし、営業マンが商品知識をせっかく覚えても、当人に売る技術をまったく教えていないから、それを生かすことができない。人はそもそも使えない知識の習得には不熱心だ。豊富な商品知識は、的確な売る技術があって、はじめて生かせるのである。
 営業マニュアルで自社商品の模範となる営業方法を示すことは、経営者や管理者の務めである。企業は成績が上がらないとすぐに営業マンの首を切りたがるが、その前に売る技術をきちんと提供するのが本筋であろう。今日、営業マンをかき集めれば売り上げが立つと考える経営者や管理者はさすがに減った。それでも営業マンに売る技術を修得させようと本気で取り組んでいる企業は、まだ少数派である。
②マニュアルの構成要素:営業マニュアルが備えておくべき基本的な要素は、知識、技術、道具、見本の4つである(図12-3)。作成にあたっては、構成要素間のバランスに配慮する。私はいろいろな企業でマニュアルを見せてもらうが、大部分はこのバランスが悪い。


 何度も述べたように、提案営業の最重要ツールは「提案書」である。提案書作成のための道具と見本がないマニュアルは、実践において無力だ。提案書のフォームとサンプルがあれば、営業マンはそれらを参考にすぐにでも実行に移せる。
 なお、営業マニュアルを作成したスタッフが自らに問いかける言葉は、「これで提案書が作成できるか?」に尽きる。
(2)研修の実施
 提案営業の実践には、営業マンが具体的なスキルを修得していることが前提となる。したがって、「営業研修」の実施は理想でなく必須なのである。それも当人に対する直接的な研修でなければならない。
 営業部門の管理者やマネジャーがスキルを修得し、そこから営業マンへ浸透させるやり方は限界がある。一度学んだくらいで提案営業を的確かつ効果的に指導することはできない。
 あくまでも専任のインストラクターが実務レベルで修得し、現場の営業マンに指導する。ちなみに提案書作成の能力がないインストラクターは、提案営業の講師として不適格である。
 私は公開セミナーなどで、企業研修の相談を受けることがある。「これだけやれば効果が保証できるという提案営業の研修カリキュラムを教えてください」と尋ねられる。そこで、「ぎりぎり3日いただければ、御社の営業方法を変えることができます」と答えている。理想を言えば5日はほしいところだが、昨今の厳しい経済環境下ではそうもいかない。顧客との接点を担う営業マンが研修で1週間も不在になるのでは、企業や部門にとって痛手であろう。
 カリキュラムの骨格となるのは、本講座の内容である。講義の間にケーススタディ、ワークショップ、ロールプレーをふんだんに織り込み、短期集中方式で実践力を養成する。提案営業の3つのフェーズ、9つのステップのそれぞれに、受講者へ何らかのアクションを要求している点が際立った特徴である。いわば中身がぎっしりと詰まった“濃縮講座”であり、営業マンは頭と体がくたくたになるが、その分だけ研修の終了後に効果を実感できる。
①研修の効果:この営業研修は、先に作成した営業マニュアルの導入時教育として位置づけるのがよい。スタッフはとかくマニュアルを作成したという事実に満足しがちだ。しかし、営業マンに配布しても用いられるどころか、読まれるかさえ覚つかない。
 営業マニュアルの利用実態を調査すれば、さんたんたる結果が出る。あの努力は何だったのかと自信を喪失するほどである。マニュアルの提供と研修の実施は、ぜひともリンクさせよう。
 一般に営業研修の効果がない原因は、提案書作成のワークショップを欠いたカリキュラム、提案書作成の指導力を欠いたインストラクターにある。さらに、仕事へ直結する工夫を欠き、その場かぎりのイベントにとどまっていることにある。営業研修は終了後を含め、トータルな仕組みとして構築する。研修部門に委ねっぱなしでは、効果は期待薄だ。
②ワークショップの組み込み:提案書作成のワークショップが組み込まれていない営業研修は、教育投資をドブに捨てるに等しい。そのワークショップでも、インストラクターが受講者に統一的な課題を与えるやり方は感心しない。営業マン一人ひとりが実際の顧客を念頭に置いて提案書を作成するのが正解である。つまり、アプローチをかけている新規顧客、パイプを太くしたい既存顧客など、いま直面している課題を尊重する。  研修担当者は、営業マンが仕事に戻った途端に研修内容を忘れている事実を踏まえる。そして、これを克服する方向で研修のあり方を見直そう。なお、営業マンはワークショップで作成した提案書に基づいてロールプレーを行う。これは顧客へ提案するためのリハーサルに相当する。
③研修のフォロー:経営者や管理者は、研修のフォローに力を注がなければならない。何よりも受講者が提案営業を実践する期限を明確に設定することだ。営業マンが提案書をOA機器で入力し仕上げてから顧客にプレゼンテーションを申し入れるという発想が、実は誤りのもとである。研修明けの朝一番で、職場から電話で申し入れるのが鉄則である。
 このやり方なら、受講者全員が少なくとも1回は提案営業を実地に体験することになる。そのなかから一定の歩留りがあり、全体の2割くらいに定着する。たかだか2割しか残らないのかとがっかりする経営者や管理者がいるかもしれない。しかし、従来の研修による歩留りは限りなくゼロに近い。全体の2割が提案営業を実践すれば、営業部門の組織風土は目に見えて変わる。全体の3割~5割の歩留りを実現するには、提案書作成に役立つ道具と見本を豊富に収録した営業マニュアルをフロッピーとともに提供する。
(3)プロジェクトの運営
 営業マンにマニュアルを提供し、それを教材に研修を実施した。そして全員が1回は提案営業を実践した。あとは営業マンに提案営業を定着させるだけだが、それには絶えざる動機づけが必要になる。
 そこで、営業研修の受講者のなかから有志を募り、提案営業の推進力となる「プロジェクトチーム」を編成して運営する。メンバーは率先して提案書を作成し、顧客へ提案して、成功事例を創造する。それを職場ですみやかに報告するだけでなく、作成した提案書を開示して共有資産とする。
 また、プロジェクトチームが中心となって提案書コンクールを開催したり、セールスコンサルタントの資格制度を導入する。このほか企業や部門の事情に応じて、必要となる役割を積極的に果たしていく。

6.閉講にあたり
 ようやく本講座も終了である。全体を通じて、私が営業マンにもっとも伝えたかったことは何か…。公開セミナーや企業研修のエンディングを締めくくるこの言葉で、本講座も終えよう。
 「提案営業って、愛なんですね!」

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