第11講◇<STEP9>
受け入れ後のフォロー
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 顧客が提案を受け入れた後にフォローを行うステップである。営業マンは決して気を抜かず、提案内容の実行に全力を傾注しよう。この段階における営業活動のあり方は、顧客の満足度に重大な影響を及ぼす。
この記事は、私が「提案営業研修」で用いてきた事前課題図書に収めた原稿です。私の営業本の第一作『提案営業成功の法則』(日本実業出版社)に若干の増補を行ったものです。 1996年の刊行から相当な歳月が経ちましたが、いまだに通用する内容です。「提案営業」に関する基礎知識が得られると考えて掲載しました。
1.徹底フォローで商談を結実へ
 営業マンはクロージングを行い、何とか商談の成立にこぎつけることができた。やれやれこれで万事終了かといえば、そうではない。商談を結実させるためには、その後のフォローが不可欠である。本講では、営業マンが提案営業の最終ステップとなるフォローに、どのように取り組むべきかについて解説しよう。
 クロージングに成功しても、営業マンのもくろみどおりに商談が進展するとは限らない。ちょっと気を抜くと、せっかく決定した話がいつの間にか立ち消えになる。営業マンは徹底したフォローを行い、商談を逃さないことである。その際の留意点を説明する(図11-1)。


(1)顧客との関係の維持
 当たり前の話だが、営業マンが顧客とコミュニケーションに努め、良好な関係を維持することが基本である。人同士の親しみの念は、コミュニケーションの頻度におおよそ比例する。それに営業マンが絶えず連絡を取ったり接触を持てば、顧客にいらぬ不安や心配を与えなくてもすむ。
 例えば、工務店の住宅営業でしばしば見受けられるケースである。営業マンは顧客にうるさがられるくらい足しげく通う。ところが、いったん請負契約を交わすと、それ以降は現場に任せっぱなしで顧客へ連絡すら取ろうとしない。
 こうした営業方法では顧客の不信感を募らせるだけである。営業マンがコミュニケーションを欠いたために顧客との関係が疎遠になり、商談が白紙に戻ることも多い。
(2)人事異動への注意
営業マンは、クロージング後の顧客先の人事異動や組織変更にとくに注意を払う。
 ところで、提案営業には既存顧客との取り引きを拡大させる狙いがある。営業マンは顧客に次年度の「予算」を確保してもらうよう、先手を打つことになる。
 まず、顧客先の予算編成期を把握し、タイムリーに商談の予約を行う。企業によって予算編成期はまちまちだが、だいたい11月から2月までの間に集中する。営業マンは次年度に提案しようと考えるすべての内容を列挙し、総合メニューとして顧客へ投げかける。
 次に、顧客先の実行検討期を察知し、相手が関心を示したメニューについては商談の成立を図る。個別メニューを掘りさげ、先に確保した予算の具体的な使い方を提示するわけだ。
 両者は、いわば全体提案と部分提案の関係にある。営業マンがこうした二段構えの提案でのぞまなければ、前年度の実績を超えられないだろう(図11-2)。せっかく素晴らしい提案をしても、今年度は予算がないとの理由で見送りになる。


 大手のみならず、企業はどこも予算で動いている。何の準備もないところに突然提案を持ち込まれても、顧客は採用することができない。大口商談に取り組む営業マンほど留意すべきである。
 さて、営業マンの努力が実って次年度予算を確保したとして、やっかいな問題がある。顧客先の人事異動と組織変更である。営業マンはこうした情報をつかんだら、いち早く行動を起こさなければならない。
 先手を打って商談を予約しても、年度末の人事異動で直接交渉した当人がいなくなったのでは、その後の進展は期待薄である。担当者が代わればそれなりの思惑が働く。
 営業マンは前任者へ引き継ぎを依頼するが、残念ながら完全に伝わることはまれである。そこで、新任者へ面談を申し入れ、前任者への商談の経緯や提案の背景を説明する。もちろん提案の受け入れを再確認することが目的である。
 また、大幅な組織変更では提案先が消滅することもある。そうでなくても組織が変われば何かと政治力が働く。


 営業マンは顧客先へ頻繁に足を運び、自社と自分の存在をアピールすることから始める。そして、提案内容を引き継ぐ組織を見きわめ、決定権者やキーマンなどの折衝先を探って面談を申し入れる。あとは人事異動への対応に準ずる(図11-3)。
 いずれの場合も新しい担当者や組織の方針、意向を尊重しつつ、提案内容は“既定事項”として交渉に当たる姿勢を貫こう。だが、新しい方針や意向が動かしがたいなら、それに則して内容に修正を加え、早急に再提案する。あまり時間を置きすぎると棚上げになってしまう。
 例えば、素材メーカーの営業活動では、最初の提案から最終的な決定に至るまで、商品の開発や試作、評価などの期間を含めて2~3年を要するケースがある。こうしたロングスパンで取り組む営業活動では、途中で人事異動や組織変更にかならず見舞われる。営業マンのねばり強いフォローが必須である。
(3)ペンディング事項の進展
 クロージングでは、すべての提案内容が受け入れられたわけではない。営業マンは持ち帰ったペンディング事項について、提案内容を再検討して追加提案に持ち込む(図11-4)。


 しかし、すでに合意事項があるわけだから先を急がないことである。合意事項の提案内容を詳細に詰めて商談として確定させてから、ペンディング事項に着手しても遅くない。あれもこれも決めようと欲張ると商談全体の進展が遅れるばかりでなく、不確実性が増す。
 ペンディング事項は、顧客へ引き続き提案を行うためのきっかけと考える。顧客との関係を継続させるという前向きな価値があるのだ。これは商談の付加価値を重視する提案営業の副次的な効用であろう。営業マンは楽しみのタネを後日に取っておくつもりで、気長にペンディング事項の進展を促そう。
(4)悪い兆候への手立て
 営業マンは商談が成立しても、提案内容の実行が完了するまでは気を抜けない。顧客の反応に細心の注意を払いつづける(図11-5)。
 クロージングの後で顧客の側に状況の変化が起こったり、ライバルが巻き返しに出たとする。これらは顧客が突然反対の意向を表明したり、商談の進展を促しても態度が煮え切らないなどの形で現れる。


 顧客の様子にわずかでも悪い兆候を発見したならば、営業マンは原因の把握に努め、迅速に手立てを講ずる。とくにライバルが絡んでいる場合は危険である。市場のパイ自体の拡大が見込めない環境下で自社の提案が通るということは、ライバルの売り上げを奪うことだ。ただ指をくわえて見ているほど、お人好しでない。また、顧客先のなかには商品の購入に「合見積り」を義務づけている企業も多い。
 営業マンが危険な状態を放置しておくと、ライバルに土壇場で商談を引っ繰り返されてしまう。野球でいうところの9回裏二死からの大逆転である。顧客の不自然な応対には、自社にとって不利な何らかの事情が隠されていると考えよ。
 顧客がプレゼンテーションの話に触れたがらない場合は、真正面から迫ってもラチがあかない。別の用件をつくって接触し、原因を探り出そう。この手が通用しないなら、窓口の担当者ではなく別の人間を頼って接触してみる。営業マンは顧客先のなかに複数の情報源を確保することの大切さを実感するだろう。太いパイプを築いておけば、いくらでも手の打ちようはある。
 顧客と接触する営業マンのことを「顧客接点担当者」とも呼ぶ。ライバルとの知恵比べに明け暮れる営業マンは、この顧客接点をプロデュースする機能をもっと積極的に果たすべきである。普段から自分の上司・同僚・部下はもとより、電話受注や請求書発行を行うアシスタントを顧客に引き合わせる。さらに、自分の提案活動を支援してくれたり、顧客へ商品やサービスを提供する関連部門の人間も幅広く紹介するなどである。
 顧客との多様な接点は、そのまま営業活動の厚みだ。何よりも自分が一番助かるのである。これからの営業マンは自らの閉鎖性を進んで打破しなければならない。
(5)新提案の機会の発見
 営業マンは合意事項を完全に固めた時点で、それに関連して新たな提案の機会の発見に努める。合意事項が確定すると、顧客の関心のありかが明確になる。それは取りも直さず顧客がもっとも重要視する課題であり、今後の方針や取り組みの方向性を物語っている。
 営業マンはこの合意事項を中核に、よりトータルな提案を試みる。さらに、顧客へ将来の展望を与えるため、長期に渡る段階的な提案をぶつける。かくして顧客と揺るぎない取り引き関係を樹立する。営業マンが足を棒にして次の顧客を探すより、はるかに商談の効率はいい。これは何も法人を対象とした営業活動に限らない。個人を対象とした営業活動へも適用できる。
 例えば、住宅営業で建物本体の請負契約を締結した時点で、住まいの器が明確になる。そこで、営業マンは間を置かず、顧客にとって理想的な住まい方をトータルに提案する。新しい住まいの器に適した家具類のコーディネートプランや造園プランという具合にである。
 さらに、住まいの資産価値を末長く維持するとともに、住まい手が快適で健康な暮らしを実現できるよう、長期に渡る修繕計画を提案する。顧客の将来の生活変化や住み替えに配慮しているわけだ。一方、工務店の立場で考えると商談当たりの単価が大幅に向上するので、営業生産性の観点から好ましい。また、顧客に関する“生涯収益”を重視した取り組みともいえよう。
 このように建物本体の請負契約を中核とした新提案は、顧客と工務店の双方に大きなメリットがある。これからの工務店は一段と踏み込んだ営業活動を展開し、顧客の共感と信頼を獲得すべきである。
 営業マンは、顧客との合意事項の周辺に新たな提案の機会がないかをとことん探ろう。そこは、まさに“宝の山”なのである。ペンディング事項の進展を促すよりは、むしろこの作業のほうが急を要する。クロージングの直後は顧客の心が期待でふくらんでいる時期でもあり、新提案はおおいに歓迎されるはずだ。

2.提案内容の実行の留意点
 業種によっては提案が受け入れられてから、商品の生産や製作に着手する。提案内容の独創性が命となる商品はこうしたケースに該当する。例えば、コンピュータの分野における大規模システムの構築である。
 提案内容を実行するには、営業マンが顧客と緊密に連携し、入念に打ち合わせることが前提となる。ここでは実行に関する留意点をごく簡単に説明する(図11-6)。


(1)実行計画の策定
 提案内容の“実行前”における留意点である。
 営業マンは顧客のベネフィットを最大化するために、詳細な実行計画を策定する。具体的には、実行計画の3要素であるスケジュール、予算、体制について明らかにする(図11-7)。いわば成功への段取りを設計して顧客ヘ提示することになる。
①スケジュールの作成
 まず、提案内容の実行に必要な作業をすべて洗い出す。これは予算の計上や体制の編成を行う際にも共通である。そのうえで、作業の手順と時間を検討する。営業マンは過去の実績や経験を踏まえ、限られた期間内に作業を適切かつ効率的に割り振ればよい。スケジュールの作成ではムダを省くのと同じくらい、ゆとりを織り込むことが大切である。


②予算の計上
 提案内容の実行に必要な作業を洗い出し、費目と金額を検討する。だが、費用を積みあげる方式だと、たいてい予算オーバーになる。むしろ実行内容に応じて、総予算を適切に配分するほうが現実的である。
 この段階で、ようやく予算の総枠が決定することも多い。総予算が縮小した場合、営業マンは値引きではなく実行内容の削減という形で対応する。ちなみに削減した内容は、次回の優先的な取り組み事項として残しておく。
③体制の編成
 大がかりな提案内容では、その実行に組織的な取り組みが不可欠になる。必要な作業を洗い出し、役割と人員を検討する。なお、役割に適した人員の確保では、外部の協力先や委託先を含める。また、実行組織の責任者を決定し、指揮系統と権限をかならず明確にする。
 いずれにしろ甘い実行計画は失敗の原因となるので十分に注意したい。
(2)クレームへの対応
 提案内容の“実行中”における留意点である。
 顧客からのクレームは、本来あってはならぬことである。だが、現実にはさまざまな問題が発生する。営業マンは誠実かつ迅速に行動し、クレームの解決に当たる。顧客とともに原因を追求し、手立てを講ずる姿勢を大切にする。
 営業マンが逃げ腰になり対応が後手に回ると、クレームを一層こじらせてトラブルへ拡大させてしまう。こうなると顧客との信頼関係を修復することは絶望的である。クレームの解決は、初期段階での営業マンの対応いかんといえる。
(3)顧客満足度の把握
 提案内容の“実行後”における留意点である。
 営業マンが提案内容を実行したら、企業や部門が主体となって顧客の満足度を把握する。いわゆる「顧客満足度調査」の実施である。おもに商品と営業活動に対する顧客の率直な評価を探ることが狙いだ。
 ある工務店は顧客が入居する際に詳細なアンケートを実施している。そして営業マンを評価するにあたり、このアンケートによる顧客満足度を唯一の基準としている。売り上げのノルマ、訪問の件数や頻度など、営業活動の量的管理をまったく行わない。業績はここ数年間、毎年数十パーセントの驚異的な伸びを達成している。
 住宅や生命保険のように見込客の紹介の比率が高い業種や商品については、顧客満足度を調査することは業績の向上に直結する。調査結果を営業活動にフィードバックし、改善や変革に役立てるのである。

3.営業マンのフォローと顧客の満足度
 営業マンは顧客が提案を受け入れた後は、とかく安心してしまう。商談の成立に至るまでの苦労が大きいほど、そうした傾向がある。
 しかし、商談の成立後における営業活動のあり方は、顧客の満足度にきわめて重大な影響を及ぼす。営業マンは徹底したフォローを行い、高い次元で顧客満足を実現しよう。
 また、商談に対する顧客と営業マンの関心にはズレが生じる。顧客にとっては商品の購入が目的ではない。その利用こそが目的である。したがって、顧客は商品の完成や納入が迫るとともに気分が高揚し、いよいよ商品を利用するという直前に関心がピークに達する。
 一方、営業マンにとっては商品の販売が目的になりがちである。したがって、営業マンは顧客の購買意欲が増すにつれて気分が高揚し、まさに契約を締結するという直前に関心がピークに達する。それ以後は次の顧客に関心が移り、先の顧客のことは念頭から消え去る。
 顧客の立場からすれば、契約の締結から提案内容の実行までの期間のほうが何かと不安である。むろん業種によっては、既存商品を納入するだけという簡単な場合もあるが…。
 例えば、若いニ人が地元のホテルで結婚式を挙げるとする。顧客は挙式当日に向けて準備が滞りなく進み、用意が万端整うかどうか大変気がかりだ。その間、不安のタネは尽きず、営業マンと直接会って相談したいことが山ほどある。
 ところが、営業マンは契約ずみの顧客のことなど念頭にないため、外出中に顧客から電話が入っていても、忙しさにかまけて連絡すら取ろうとしない。顧客は契約したことを後悔し、友人や知人など会う人ごとに不満をもらす。
 営業マンと顧客の関心のズレは、そのまま顧客の「不満足」の度合いである。営業マンのフォローがお座なりだと、あっという間に商圏を食いつぶす。こうした営業マンは顧客に商品を売ったつもりで、実はストレスを押しつけている。したがって、商品を売れば売るほど顧客を失うハメになる。

4.業績は顧客満足度に比例
 和田創研は、営業活動に関する顧客満足度調査を受託する機会が多い。これまでの調査結果から、業績は見事なくらい顧客満足度に比例することが判明している。
 例えば、生命保険の営業マンの成績は、見込客の紹介の比率に比例する。そして、既存顧客から見込客を紹介してもらえるかどうかは、満足度次第である。提案営業でも既存顧客の満足度を高め、そこから見込客の紹介につなげていく。
 提案営業は最終的に「顧客は最良のセールスマン」という状態を目指す。それは何度も述べたようにフォローの段階における営業マンの対応いかんである。営業マンがフォローを徹底して行えば、顧客満足度はおのずと高まる。
 右肩下がりの経済、飽和市場を前提とすれば、顧客満足を実現するよりほかに業績の伸びはありえない。営業マンは既存顧客をつなぎ、新規顧客を広げるという理想の業績向上サイクルを確立しよう。
 先に説明した急成長の工務店の経営者はつねづね営業マンに商品を売るな、商品は顧客が売るものだと言っている。それでは営業マンの立つ瀬がないじゃないかと心配する必要はない。営業マンは顧客満足度を向上させることだけに、全神経・全精力を集中させよという意味である。
 つまり、営業マンの仕事は最良のセールスマンになりうる顧客を育成することだという、この経営者なりの信念に基づいているのである。そして、それは「提案営業」によってこそ可能になるというのが私の持論である。

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