第10講◇<STEP8>
商談のクロージング
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 一通り提案内容を説明し終え、いよいよ商談をクロージングするステップである。営業マンは顧客が提案の受け入れにより享受しうる最大限のベネフィットをダメ押ししよう。その場でかならず色よい返事を引き出せるはずだ。
この記事は、私が「提案営業研修」で用いてきた事前課題図書に収めた原稿です。私の営業本の第一作『提案営業成功の法則』(日本実業出版社)に若干の増補を行ったものです。 1996年の刊行から相当な歳月が経ちましたが、いまだに通用する内容です。「提案営業」に関する基礎知識が得られると考えて掲載しました。
1.プレゼンテーションを締めくくり
 前講では、営業マンが作成した提案書に基づいてプレゼンテーションを行った。顧客の反応に合わせ、突っ込んだ説明も試みたはずである。
 営業マンは一通り提案内容を説明し終えたら、ごく簡潔にまとめを行う。とくに提案内容が多岐に渡る場合には、説明の時間も必然的に長くなる。営業マンが伝達する情報量も増えるため、顧客の頭は混乱したり疲労している。すべてをきちんと理解していることはありえない。
 営業マンは顧客の認識の誤りを正したり不足を補いながら、提案内容のより的確な理解を促す。そのうえで、提案内容の要点を強調するのである。この提案が目指すところは何か、そのために必要となる商品は何かをおさらいする。
 本講は、プレゼンテーションの締めくくりとなるクロージングの段階である。

2.クロージングの時間を織り込み
 クロージングは商談の成立を図るものであり、その意味で提案営業における最重要ステップといえる。プレゼンテーションの仕上げがクロージングだと考えてほしい。両者は一連の行為なのである。
 営業マンはこのクロージングを目指して懸命に努力を重ねてきたわけで、提案営業の当面のゴールである。そこで、プレゼンテーションの終了後、タイミングを見計らってクロージングにかかる。むろんコンペのような特殊なケースを除いての話である。
 ところが、プレゼンテーションの本番はなかなかリハーサルどおりに進まない。営業マンの説明が熱を帯び、顧客の反応がよいほど押し詰まる。時間内ぎりぎりでプレゼンテーションを終了したのでは、クロージングする機会がなくなる。したがって、営業マンはプレゼンテーションの申し入れの際に、クロージングの時間をかならず織り込んでおく。

3.その場でいい返事を取りつけ
 これまでの営業活動のプロセスを振り返ってみよう。営業マンは顧客の理解に努め、明確にした課題に基づいて提案内容を考え、提案書にまとめた。そして、キーマンと提案内容のアウトラインについてすり合わせをすませた。顧客に真正面からプレゼンテーションを申し入れ、それなりの心の準備をさせ、覚悟も決めてもらった。
 こうした相互理解を前提にしてプレゼンテーションを行う以上、営業マンはその場で顧客から返事をもらうことが鉄則である。したがって、「よろしくご検討ください」などと口にしない。そんな腰が引けた態度では、万全を期してプレゼンテーションにのぞんだ意味がない。
 営業マンが徹底した顧客志向に基づき、ベネフィットを実現したいとの気持ちから持参した提案書はまさにラブレターである。それは顧客への愛に満ちあふれているはずだ。
 顧客の繁栄や幸福を支援するのだから、営業マンはもっと自信を持ってほしい。プロポーズとは相手に渾身の愛を表明し、回答を迫る機会である。「この場でいい返事をもらわないうちは引きさがらない」。そうした強い気迫がぜひとも必要になる。
 営業マンは提案が受け入れられて当然、拒否されるとはこれっぽっちも考えていないという姿勢を最後の最後まで貫き通そう。

4.商談の成否の分かれ目
 クロージングは、商談の成否の分かれ目になる。ここを乗り越えないかぎり、成績の向上は見込めない。
 プレゼンテーションであれほど熱心に説明してきたのに、クロージングで突然弱腰になってしまう営業マンが多い。顧客から帰れと命じられたわけでもないのに、そそくさと提案書をアタッシュケースにしまい込む。これなどは帰り支度にしか映らない。
 営業マンよ、ダルマに目を入れる肝心な作業を忘れていはしないか。クロージングでは、提案の受け入れに関する最終的な決断を顧客へ促すべし。

5.クロージングのポイント
営業マンがクロージングを行ううえで押さえるべきポイントを説明する(図10-1)。


(1)疑問や不安の除去
 営業マンは一貫して顧客理解に多大なエネルギーを費やしてきた。顧客が提案内容のどのあたりに疑問や不安を感じそうかもおおよそ見当がつく。ここで一見浮かない顔をしている顧客の心理を誤解してはならない。営業マンの熱心な説得に顧客の心は大きく動いている。むしろ何とか提案を受け入れたいと望むからこそ、悩んでいるのである。
 ただ、決断を下すにはいくつかの心配があるということだ。クロージングでは、営業マンは顧客の疑問にていねいに回答し、不安を着実に解消する。たとえささいなことでも、顧客の心配を一つずつ取り除こう。
(2)ベネフィットのダメ押し
 クロージングの決め手は、提案の受け入れにより顧客が享受するベネフィットをダメ押しすることである。顧客の関心は、結局ここにしかない。気の弱い営業マンは、プレゼンテーションで顧客のベネフィットを説明したわけだから、同じ言葉を繰り返すのははばかられると思いがちである。
 だが、営業マンが顧客志向に基づいて提案内容を考えているかぎり、顧客の側はこのベネフィットを切り崩すことができない。営業マンは顧客にとって最大限の利益や利便、利点などを遠慮なく繰り返そう。
(3)合意事項の突出
 提案営業とは、商談の付加価値を重んずる営業方法である。顧客志向に基づいてベネフィットを追求する過程で、提案すべき商品が必然的に複合化したり高度化する。
 例えば、コンピュータの分野で、ハードにソフト、サービスを加え、効率的なシステムとして提案する。ファクトリーオートメーションの分野で、中核となる機械に関連する機器を加え、生産性の高い設備として提案する。オフィスファニチャーの分野で、第1次、第2次、第3次と段階的に什器を導入し、働き手に快適なビジネス環境を提案するといった具合である。
 これらはいずれもトータルな提案内容であり、見積書の金額も“ケタ違い”になる。営業マンの立場からすれば、商談当たりの単価が劇的に向上する。だから、営業マンがクロージングを行い、提案内容がすべて受け入れられなくても落胆する必要はない。通常の営業方法なら1の内容が、提案営業では10の内容にふくらんだのである。


 クロージングでもっとも大切なことは、トータルな提案内容のうち合意事項とペンディング事項を厳密に仕分けすることである(図10-2)。営業マンはプレゼンテーションの間、提案書ではなく顧客のほうを見つづけた。提案内容に対する顧客の反応を注視していたはずである。
 そこで、営業マンは顧客が関心を示した提案内容を大声で読みあげ、「AとCとDについてはよろしいですね」と念を押す。これが合意事項である。続けて、顧客が関心を示さなかった提案内容も大声で読みあげ、「BとEとFについては持ち帰って検討し、再度提案させていただきます」と伝える。これがペンディング事項である。
 営業マンはペンディング事項を「持ち帰る」と明言せよ。クロージングでは、顧客に合意事項しか残さない。これで顧客の側に拒否する理由がまったくなくなる。
 せっかくトータルな提案を行ってもこの仕分け作業を怠ると、ペンディング事項に紛れて合意事項までうやむやになってしまう。営業マンは合意事項を突出させ、ペンディング事項で腐らせない配慮が必要だ。それにより顧客との合意が確実に形成されるのである。
(4)ネクストコンタクト
 営業マンが周到に環境づくりをしてプレゼンテーションにのぞんでも、その場で色よい返事を引き出せないことがある。キーマンと提案内容のすり合わせをすませ、決定権者に同席してもらっているにもかかわらずである。これは顧客先の企業風土や意思決定の慣行によるところが大きい。
 どうしても結論が持ち越しになるときは、ネクストコンタクトを取りつける。そうでないと足が遠のき、顧客との縁が切れてしまう。営業マンは返事をもらう機会をかならず確保する。
 また、顧客から提案が大筋で評価されたうえで、内容の詳細な詰めを要請されることがある。営業マンは時間を置かず、早急に再提案する。「鉄は熱いうちに打て」と言うではないか。
 なお、このクロージングが甘いと、仮に商談が成立しても後日のトラブルの元になる。受け入れられた提案内容をしっかりと確認し、あいまいな部分を一切残さない。
(5)いさぎよい仕切り直し
 クロージングの段階で、参加者から否定的な意見が相次いだらどうするか。本講座で紹介してきた基礎的な手続きを着実に踏めば、こうした最悪の事態は本来ありえない。
 これはプレゼンテーションに持ち込むまでの環境づくりを軽視したか、それ以前の問題として提案内容のすり合わせが不十分なために方向性をはずしたことが原因であろう。
 つまり、準備が整わないうちに提案してしまったのだから、営業マンはいさぎよく仕切り直しをする。ここでねばったところで、顧客の心証を害するばかりである。
 営業マンは提案内容のどこにも合意事項を見出せない状態で、顧客に返事を迫ってはならない。結末は目に見えている。プロポーズでも相手からいったん断られたら、翻意させるのは絶望的である。次に会う約束だけを取りつけ、早々に退散するのが賢明というものだ。そして、提案内容を抜本的に練り直し、信頼回復の機会に備えることである。

6.迷える顧客に判断基準を明示
 顧客が提案内容に賛同してくれたはずなのに、なかなかいい返事をもらえない。営業マンにしてみたら、もどかしくて「なぜだ!」と言いたくなる。
 顧客はしばしば提案を受け入れるかどうかでおおいに迷う。自分がこの場で決断することに確信を持てない状態である。営業マンは迷える顧客に判断基準を明示しよう(図10-3)。


(1)競合先との相違点
 顧客は自分が抱える課題が確実に解決することを望んでいる。したがって、課題に則してライバルとの相違点を説明することはきわめて有効である。営業マンは自社や自社商品、そして自分そのものがいかに課題解決に役立つか、ライバルとの比較において強調しよう。
 なお、提案書に記した顧客の課題は、自社の強みを生かして解決できるという前提で絞り込んでいる。
(2)現状への疑問
 顧客は自らの現状に不満を感じないかぎり、解消の欲求がわかない。また、現状に不備を見つけないかぎり、充足の欲求が起こらない。
 営業マンが提案書の論理化部分で、現状、目標、課題という三段構えで記したのも、顧客の潜在ニーズを掘り起こすためであった。しかも現状の欄では「問題点」を中心にまとめ、顧客が現状に疑問を抱かざるをえないように誘導した。
 営業マンは迷える顧客に対し、現状を容認することは損失であり危険であると伝えよ。利益を逃している実態に気づかせ、顧客の決断を期待するのである。
(3)他社の成功事例
 市場の伸びを前提にできない環境下では、顧客の意思決定もおのずと慎重になる。何をやってもうまくいかないため、現状のままではいけないと思いつつ、現状を変えることに不安がつきまとう。顧客にとって提案を受け入れることは現状の変更や変革につながり、少なからずリスクをともなう。顧客先の企業も担当者も自信を喪失しており、ついつい決断が鈍る気持ちは痛いほど分かる。
 営業マンが提案書にまとめる際は、裏づけ部分に実績などのデータを盛り込むように説明した。なかでも他の顧客の成功事例を紹介するのが一番安心感を与える。
 だが、すべてのデータを提案書に盛り込むわけではない。切り札となるデータは、プレゼンテーションの段階で出し尽くさないことが肝心である。クロージングの段階まで温存しておき、顧客の様子を見ながらぎりぎりのタイミングで提示する。
 ちょうど時代劇の「水戸黄門」における印籠のような胸のすく使い方を心がけたい。

7.顧客の抵抗に適切に対処
 顧客に提案の受け入れを最終的に決断させるのは、なかなか骨が折れる作業である。
 顧客が本音では提案を受け入れたいと望んでいる場合でさえ、すんなりと決まることはまれである。顧客は十分に納得したうえで商品を購入したいため、何度となく拒むのだ。営業マンはこうした顧客の抵抗に適切に対処しなければならない(図10-4)。
(1)表面的な反論への応酬
 商談の規模が大きくなれば、顧客の抵抗も激しいのが普通である。営業マンの説得に対して、およそ思いつくかぎりの反論を並べ立てる。
 だが、それは自分を十分に納得させてほしいという顧客のサインである。営業マンは提案の受け入れを信じて、根気よく説得を続けよう。注意すべきは感情的になり、顧客と渡り合わないことである。相手の立場を尊重したうえで、それを切り崩すように努める。顧客と真っ向から議論して勝ったところで、商談が成立しなければ何にもならない。
 すでに提案準備のフェーズで提案上の困難を予測し、説得の切り札を用意した。これで顧客の手強い反論には対処しうる。あとは自社の業種や商品にお決まりの表面的な反論だけが残る。そこで、応酬話法を標準化し、自在に展開できる水準まで練習を積むことになる。


(2)値引き要求への対応
 顧客は価格などの条件に関してきわめてシビアである。ぎりぎりの条件を引き出したいのが本音だ。営業マンが価格交渉で苦労しているのも事実である。
 しかし、見方を変えると、値引きという価格面の満足に顧客の目を向けさせたのは、ほかならぬ営業マン自身である。私は公開セミナーなどで「値引きの張本人は営業マンだ」と指摘している。クロージングの決め手として、あまりにも安易に頼ってきた経緯がある。これでは顧客にさらなる値引きを期待させてしまう。継続的な愛顧を目指す提案営業では、ちょっとした値引きも積もり重なると実に大きい。


 営業マンが顧客の先回りをして値引きする現場を、私は何度も目撃してきた。これでは商談の成立にこぎつけたとしても、適正な利益は確保できない。自社と自分の首を締める営業方法とは、いい加減に縁を切るべきである。
 提案営業では、商品の価値に営業マンの提案の価値を加えて価格とする(図10-5)。値引きに頼らず、あくまでも提案内容の魅力を前面に押し出して説得に当たろう。簡単に妥協しない姿勢が基本である。


 実際のところ、価格などの条件は顧客が提案の採否を決定する目安の一つにすぎない。営業マンが思い込むほど、顧客は気にしていない。提案営業で見積書の金額がふくらんだからといって、営業マンは遠慮したり気後れしないことだ。まして顧客の態度が煮え切らないだけで、勝手に値引き要求と判断しない。
 顧客は費用そのものでなく、「費用対効果」で最終的に判断する。それは提案の受け入れに必要となる投資と、受け入れにより享受するベネフィットとのバランスである(図10-6)。したがって、顧客の値引き要求に対しては、費用と効果の関係による相対的な評価に置き換えて説得する。効果の大きさとの比較において、費用の小ささを強調するわけである(図10-7)。


 なお、ほとんどの顧客から価格の高さを指摘される場合は、営業マンのほうから先に切り出すのが得策である。顧客の口から「価格が高い」と言わせてしまうと、クロージングに何かと支障を来す。
(3)心理的な説得
 人は理性と感情の動物だ。クロージングでは、論理的な説得と心理的な説得の両方が不可欠である(図10-8)。
 論理的な説得については、提案の内容の具体化、提案書の作成と仕上げのステップですでに説明した。提案内容における論理の一貫性を土台に、顧客の理性へ働きかけるものだ。
 だが、これだけでは決断しない顧客も現実には多い。そこで、営業マンは心理的な説得を試みる。顧客との人間的な共感を土台に、顧客の感情へ働きかけるのである。
 営業マンは、現状のままではみすみす利益を逃していることを切々と説き、目標を実現したあかつきの理想的な姿や状態を熱っぽく語る。


 また、顧客のベネフィットについても経済的な利益のみならず、精神的な価値などへ目を向けさせる。例えば、ファクトリーオートメーションの分野ならば、工場の生産性の向上や製品の歩留りの改善に加え、従業員の士気の高揚や健康の増進などを強調する。
 さらに、他の顧客の成功事例として、提案の受け入れにより生産現場を革新した担当者に対する社内の賞賛の声を紹介するといった具合だ。きわめて人間臭い説得である。
 提案営業では頭は下げるためにではなく、使うためにあると考える。だが、クロージングの段階で営業マンが深々と頭を下げ、顧客の自尊心を満足させるのは有効である。人の願いを聞き入れるという行為は、だれしも気持ちがいいものだからだ。どうせなら顧客に気分よく提案を受け入れてもらおう。これにより両者の間に一段と親密な関係が形成される。

8.商談の成立
 はじめに述べたようにクロージングとは商談の成立を図ろうとする行為であり、営業活動の当面のゴールではある。しかし、クロージングこそがすべてとばかり、このステップを極端に重要視するのは大きな間違いだ。そうではなく、提案営業は全体のプロセスを大切にするのである。
 私の経験からしても、基礎的な手続きを踏めばおのずと商談の成功率は高まる。その成否はクロージングに直接左右されるというより、これまの営業活動の結果である。商談をクロージングできるかどうかは、営業活動の総体に対する顧客の評価いかんであろう。

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