第9講◇<STEP7>
プレゼンテーションによる説得
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 営業マンが作成した提案書に基づき、プレゼンテーションで顧客を説得するステップである。トーク、パフォーマンス、ツールの3要素を駆使して、提案内容の魅力を理解させよう。自分の言葉として語るゆとりを持つことが大切である。
この記事は、私が「提案営業研修」で用いてきた事前課題図書に収めた原稿です。私の営業本の第一作『提案営業成功の法則』(日本実業出版社)に若干の増補を行ったものです。 1996年の刊行から相当な歳月が経ちましたが、いまだに通用する内容です。「提案営業」に関する基礎知識が得られると考えて掲載しました。
1.いよいよ提案営業の本番
 これまでに、④提案の内容の具体化、⑤提案のシナリオの設計、⑥提案書の作成と仕上げというステップを踏んで「提案内容」のフェーズを終えた。営業マンが企画力を活用して、顧客にとって魅力ある提案内容を考え、提案書にまとめていく過程であった。これは顧客の抱える課題解決に役立つ具体的な内容を立案する作業にほかならない。
 これからは、いよいよ「提案行動」のフェーズに入る。営業マンが説得力を発揮して、⑦プレゼンテーションによる説得、⑧商談のクロージング、⑨受け入れ後のフォローというステップで進める。
 本講ではプレゼンテーションを通じて顧客を説得する作業に取り組もう。営業マンが提案書に基づいて提案内容に対する顧客の理解を促し、評価を得ることが狙いである。
 提案書の作成は、提案営業の準備を整えたにすぎない。このプレゼンテーションこそが、提案営業の“本番”である。プレゼンテーションとは、営業マンが顧客に提案を行うために設定する特別の機会である。商談の全過程におけるクライマックスといえるだろう。

2.プレゼンテーションの重要性
 提案内容がどんなに優れていても、それを伝達するプレゼンテーションがまずくては商談の成立に結びつかない。
 実際、同じ提案内容でもプレゼンテーションの巧拙により、顧客の評価はしばしば正反対になる。優れた提案内容は営業マンの巧みなプレゼンテーションに支えられて、その魅力が倍加する。優れた脚本は俳優の巧みな演技を得て、その魅力が倍増するように…。
 そして、プレゼンテーションの主導権は営業マンが握っている。顧客が主役という考え方もあろうが、この場に限定すれば提案書というラブレターを携えてプロポーズする営業マンが主役のはずだ。顧客への訪問と面談を繰り返しながら準備作業を積み重ねてきた営業マンにとって、プレゼンテーションは晴れの舞台である。

3.プレゼンテーターの心構え
 顧客を前にしてプレゼンテーションを行う営業マンのことを「プレゼンテーター」という。営業マンは何よりも自信と熱意にあふれていなければならない。この自信と熱意が顧客への説得力を強化する。営業マンがいかにも自信なさそうに話すのでは、顧客が不安を感じてしまう。また、営業マンの熱意は顧客の心を動かす原動力である。


 だが、若い営業マンはこれだけだと顧客から生意気と受け取られかねない。そこで、人間的な誠実さを説得の土台に置く。顧客に受け入れてもらうという謙虚な気持ちを忘れないことだ。顧客の説得に当たる営業マンは、自信、熱意、誠実さを心構えの基本とすべし(図9-1)。
 プレゼンテーターの力量は、プレゼンテーションの成否にとってきわめて重要である。提案内容の魅力とプレゼンテーターである営業マンの魅力を重ね合わせ、相乗効果を追求する。音叉のように両者の魅力を共鳴させ、増幅させよう。

4.トークが基本かつ大切
 プレゼンテーションでは、トーク、パフォーマンス、ツールの3要素をバランスよく駆使する(図9-2)。それぞれのポイントについて簡単に解説しよう。
 プレゼンテーションでは、営業マンが言葉で説明することが基本となる。とくに顧客への論理的な説得が大切である。


(1)分かりやすさ
 提案書の作成でも、提案内容を分かりやすくまとめるように最大限の努力を払った。顧客の評価を得るには、まず正しく理解されることが条件となる。営業マンは明瞭な話し方を心がけ、分かりやすく内容を伝える。語尾が聞き取りにくいと肯定か否定かがあいまいで、自信もなさそうである。
 営業マンが伝えたつもりの内容は、実際にはごく一部しか伝わっていない。顧客にとって理解しやすい話し方を実践するうえで、営業マンが留意すべき点を示そう(図9-3)。内容の説明は日常会話で用いる平易な言葉で行う。業種や商品によって確かに専門的な用語はある。これらを顧客が分かるはずと考えるのは失敗の元である。


(2)商品の説明
 営業マンはしばしば商品知識をひけらかし、顧客をうんざりさせてしまう。自社と自社商品の優位的特徴は、顧客の課題解決という観点から役立つ部分だけを説明すれば十分である。
 顧客に何の利益もない品質や機能を力説しても退屈させるどころか、プレゼンテーションの焦点をぼやけさせる。残念ながら、顧客の頭を混乱させる商品説明がまかり通っている。
(3)双方向型の進行
 大勢の参加者を前にしたプレゼンテーションでは一方通行に終始しがちだが、営業マンは対話による双方向型の進行を目指そう。コミュニケーションが深まるほど、相互の信頼関係は盤石になる。
 顧客の意向を尊重する営業マンに対して、顧客が好感を抱くのは自然の成り行きである。

5.パフォーマンスで演出
 プレゼンテーションの魅力を高めるうえで、トークとともにパフォーマンスが果たす役割は大きい。パフォーマンスとは、顧客の注目や関心を引きつけるために営業マンが工夫する演出行為である。プレゼンテーションに即して述べれば、プレゼンテーターの笑顔、目線、仕草がもたらす総合的な効果である(図9-4)。


(1)笑顔
 顧客は営業マンに対して何らかの印象を持っている。この感じの善し悪しは、そのまま人の好き嫌いにつながる。好きな営業マンとつきあいたいと思う顧客の感情を無視することはできない。仕事上の提案といっても、決断を下すのは生身の人間であるからだ。
 そこで、顧客の印象を左右する営業マンの表情が重要になる。なかでも決め手は「笑顔」である。笑顔には、そもそも人を幸福にする力がある。顧客の好感を獲得することは、すべての演出行為に優先するはずだ。好感が持てない営業マンのパフォーマンスは、いやみにしか映らない。素敵なスマイルは、最良のパフォーマンスと知ろう。
(2)目線
 目の使い方であり、目の方向でもある。パフォーマンスの3要素のなかで、顧客への説得にもっとも寄与する。営業マンは顧客に対して「あなたを尊重しています」という気持ちを目に託すわけである。
 プレゼンテーションの参加者がごく少数なら、顧客の目を見ることはむずかしくない。だが、どんなに参加者が多くとも営業マンは会場の全体に目配りし、一人ひとりとアイコンタクトを取るように努めよ。目を見ずに、その人を説得することはできないのだ。
(3)仕草
 仕草とは、営業マンの肉体を用いた動きの演出である。営業マンはトークと連動させて、身ぶりや手ぶりなどのジェスチャーを駆使する。これは言葉による説得の補助手段として位置づけられる。
 日本人は照れ屋が多く、仕草による表現が苦手である。無理にやろうとすると妙に不自然になり、トークとまったく馴染まない。カラオケと同じで慣れが大切であり、何度か試みるうちにコツが身につく。

6.プレゼンテーションツールを活用
 営業マンは提案書のほか、必要に応じてプレゼンテーションツールの活用を検討しよう。


(1)提案内容の視覚化
 おもに提案内容を視覚化して、情報伝達の効果と効率を向上させることが狙いである(図9-5)。顧客の視覚はもとより、聴覚や触覚などへマルチに訴えかけ、提案内容を具体的かつ生き生きと説明する。
(2)ツールの効用
 ツールには、顧客への説得力を強化するうえでさまざまな効用がある(図9-6)。あえてツールを制作して、私からあなたへ、当社から御社への強い思いを伝えるのである。


 営業マンの説明が延々と続くだけだと顧客は息が詰まり、集中力を保てない。平板になりがちな時間の流れにちょっとした変化を与え、顧客の気分転換を図ろう。
 プレゼンテーションの進行がやけに遅いと顧客が感じるようでは失敗である。時間がたつのを忘れてしまったという状態が理想だ。



(3)ツールの留意点
 ツールには多彩な種類があり、それぞれにメリットとデメリットがある(図9-7)。営業マンは提案のTPOに合わせてツールを選択し、それらを組み合わせて相乗効果を高めよう。なお、個々のツールの表現上の特性を生かし切ることが大切である。





7.特別な機会として演出
 ツールの準備も整い、プレゼンテーションの申し入れを行う。営業マンは、顧客との日常的なコミュニケーションとはっきり区別して考えることである。決してこれまでの訪問や面談の活動の延長にしてはならない。ここを誤解する営業マンが多く、せっかく作成した提案書も効力が半減してしまう。
 とくに既存顧客の場合、営業マンは普段の商談のように担当者に歩み寄り、そのまま説明に入りがちである。これなどはもっとも下手な提案の仕方であろう。プレゼンテーションとは営業マンから顧客へのプロポーズであり、“特別な機会”として演出することが決め手となる。

8.プレゼンテーションの申し入れ
 営業マンは気後れせずに、真正面から顧客へプレゼンテーションを申し入れよう。相手のベネフィットに直結する知恵の体系を提供するわけだから…。提案の重みを正当に受け止めてもらえるかどうかが、商談の成否の分かれ目である。
 営業マンは提案の趣旨を簡潔に述べ、日程と時間、会場、参加者などを確認する。
(1)日程と時間
 日程は、あまり先でも近くてもいけない。数日から10日くらい後がタイミングとして好ましい。顧客に提案内容を理解させるために、必要にして十分な時間を確保する。説明が尻切れトンボに終わらないよう、ゆとりをかならず織り込むことだ。
(2)会場
 何といってもプロポーズを行う場であるから、設定に細心の注意を払おう。途中で来客や電話が取りつがれ、プレゼンテーションの流れが中断されるような環境は避けなければならない。ましてざわざわした環境のなかで行うのでは、商談の成立は絶望的である。そういう恐れがあるなら、応接室か会議室を確保してもらうように強く働きかける。営業マンは、場の設定で妥協することは禁物と知るべし。
 顧客先に落ち着いた場が見当たらないときには、顧客を自社内の施設に呼ぶことになる。こうした要請に応じる顧客は、提案内容が優れていれば受け入れる気持ちを持っている。きわめて賢明で有効なやり方である。足をわざわざ運んでくれる顧客は味方と考えてよい。いわば“踏み絵”の役目を果たす。
(3)参加者
 参加者は少ないほど説得が容易である。1人、2人、3人、5人、10人と多くなるほど、説得が困難になる。
 営業マンの本音として、参加者はできるだけ少数にとどめたい。営業マンは一対一の親密な打ち合わせは得意だが、大勢の前での公式な説得は苦手である。
 だが、提案内容に対して何らかの意見を表明する権利のある人は、すべて同席してもらうことが原則である。プレゼンテーションの場以外でとやかく口をはさまれるのが一番困る。参加者の範囲は慎重に検討しなければならない。
 なお、営業マンは提案の受け入れに関して最終的な判断を下す「決定権者」が同席するように最大限の努力を払う。

9.キーマンへの根回しが不可欠
 顧客先の規模や商談の規模が大きくなると、決定権者の同席が得られるとは限らない。その場合はキーマンの同席を実現する。決定権者もキーマンも不在の場で行うプレゼンテーションは、何の意味もない。
 キーマンとは、決定権者の判断に重大な影響を及ぼす人物である。日本の企業には、合議による決裁が根強く残っている。キーマンはしばしば会議の場で主導権を握ったり、会議の締めくくりとなる発言を行い、提案の採否を決定づける。
 どんなに優れた提案内容であっても、プレゼンテーションの場ではじめて知り、即座に受け入れを決定するのは無理だろう。参加者があらかじめ提案内容のアウトラインを把握していれば理解も円滑になり、合意も形成しやすい。
 営業マンはプレゼンテーションにのぞむ前に、かならず根回しを行うべきである。「根回し」という言葉には、どこか暗くて後ろめたいイメージがつきまとう。だが、それは悪いことを根回しするから問題になるのである。プレゼンテーションで顧客に提案内容をぶつける前に感触を探っておくことは、ビジネスとして当然の手続きである。
 とくにキーマンへの根回しを怠ってはならない。事前に提案内容のアウトラインについてすり合わせを行い、関心のありかを探る。もし障害があるとしたらそれは何かを突き止め、しっかりと対処しておく。

10.事前の環境づくりがすべて!
 営業マンは、まずキーマンの好意と信頼の獲得に努める。顧客先のなかにブレークスルーの拠点となる自分の支援者をつくり、そこから徐々に支援者の輪を広げる。
 あらかじめ自分の提案を喜んで聞いてもらえる環境を整備することがすべてである。プレゼンテーションに持ち込むまでの環境づくりで、提案の受け入れの大半は決定してしまう。営業マンは“半信半疑”の状態でプレゼンテーションにのぞんではならない。通るという確信が持てるまで、環境づくりに全力を傾注せよ。
 なお、根回しでは、キーマンとの人間関係がどの程度形成されているかに留意する。提案内容のアウトラインをすり合わせるとは、その核心となる考えを事前に明かすことである。
 キーマンが配慮に欠ける場合は、たとえライバルに直接もらさないまでも顧客先で広まり、そこからライバルにもれてしまう。ましてキーマンが営業マンを快く思っていないと、提案内容の核心が筒抜けになる。当たり前の話だが、顧客先のなかの“敵”にだけは根回しを行えない。

11.本番前に予行演習を徹底
 提案営業の本番であるプレゼンテーションを行う際のポイントを、その予行演習であるリハーサルの仕方を含めて詳しく解説しよう。
 日本人はこれまでリハーサルの習慣があまりない。なぜかといえば、大勢を前にして意見を発表する機会に縁がなかったからである。ビジネスシーンでプレゼンテーションを行う機会が増えた今日でも、リハーサルを経て本番にのぞむ営業マンはほんの一握りである。元来照れ屋という国民性と相まって、どうもリハーサルを軽視しがちだ。
 プレゼンテーションのスキルは、広告業界で確立された。広告代理店のスタッフはプレゼンテーションそのものを仕事としているので、リハーサルに熱心である。また、プロの司会者はリハーサルの重要性を認識しており、決して省略しない。プレゼンテーションに不慣れな営業マンなら、本番前にリハーサルを入念に繰り返すことが必要である。
 小学生のころを思い起こしてほしい。子どもがあれだけ見事に運動会をやってのけるのも、予行演習のたまものである。本番に向けてリハーサルを重ねる努力が、運動会を成功へと導く。提案営業におけるプレゼンテーションとて同様であろう。

12.リハーサルで有効性を検証
 リハーサルの狙いは、本番のプレゼンテーションの有効性を検証することにある(図9-8)。リハーサルによる検証の仕方をまとめよう。


(1)シナリオの検証
 本番のシナリオ自体に不都合はないか、全体の構成、時間の配分、提案内容の出来などを中心に点検する。
(2)トークの検証
 営業マンの話し方は分かりやすいか、説得力があるかどうかを点検する。また、難解な言い回しや誤解されやすい言葉づかいはないだろうか。営業マンはシナリオを反復して練習し、自分が意図したとおりのトークが本番ですらすら展開できる水準を目指そう。
(3)パフォーマンスの検証
 営業マンの演出行為は提案内容の魅力をさらに高めるものかどうかを点検する。トークとの関連から、どのような場面でパフォーマンスを駆使するかも検討する。顧客にぎこちなさを感じさせぬよう磨き抜くことである。
(4)ツールの検証
 プレゼンテーションツールの内容や表現、利用するタイミングは適切かどうかを点検する。機材を使用する場合は、その作動状態や操作方法も点検しておく。
(5)質問への対応の検証
 想定される質問への対応は万全かどうかを点検する。質問は顧客が強い関心を寄せたり、逆に反発や拒否を示しそうな部分に集中する。リハーサルの参加者全員で多角的に質問を抽出する。
 これらの検証の結果を踏まえ、必要があれば提案書にさかのぼって修正する。不都合を放置しておくと、プレゼンテーションで何らかの支障を来すことになる。

13.リハーサルの留意点
 営業マンがリハーサルを行ううえで、留意すべき点を説明しよう(図9-9)。
(1)実際の発声
 リハーサルでは、営業マンは実際に声を出してみる。気恥ずかしいからと、心のなかで話すのでは効果がない。社内の会議室を確保するなど、本番に近い環境で行う意気込みがほしい。参加者の人数や会場の広さを意識し、声の大きさにも気を配ろう。
 営業マンが話す際に同じ箇所で何度も引っかかるようなら、シナリオを書き直す。提案の内容ではなく表現を変更して、言い回しが円滑になればよい。


(2)論理の流れ
 提案書において論理の首尾一貫がもっとも大切であることはすでに述べた。プレゼンテーションのシナリオに論理の筋が通っていないと、顧客を説得することはできない。先ほどのシナリオの検証では、論理の流れが円滑かどうかにとくに留意する。
(3)時間内の終了
 プレゼンテーションで営業マンに与えられる時間は、せいぜい30分から1時間程度である。成り行き次第ということはありえない。参加者は次の予定が詰まっており、決定権者やキーマンはきわめて多忙である。営業マンが意図したプレゼンテーションが時間内にゆとりを持って終了できなければならない。
(4)役割の分担
 長時間のプレゼンテーションの場合は、何人かでチームを組んでのぞむ。営業マンが初めから終わりまで一人で話しっぱなしというのは好ましくない。こうしたプレゼンテーションではイベントを実施するときのように、メンバーの連携とそれによる盛りあがり、つまりチームワークが大事である。
 例えば、冒頭の挨拶、提案の背景と趣旨の説明、提案内容の説明、プレゼンテーションツールの利用、補足の説明、提案内容の要約、クロージング、終了の挨拶など、メンバーが役割を分担する。チーム全員の呼吸がぴったりと合って、はじめて感動的なプレゼンテーションが実現する。そのために徹底したリハーサルが不可欠である。
(5)客観的な評価
 大勢を前にして意見を発表する機会が少ない営業マンは、とかく独り善がりの説明に終始しがちである。リハーサルには社内の関係者に立ち会いを依頼し、客観的な立場から感想や意見を述べてもらう。
 第三者による評価ではいまひとつピンと来ない、リハーサルの出来をもっとシビアに見きわめたいという場合は、ビデオカメラで収録するのが一番である。大半の営業マンは自分のプレゼンテーションのつたなさを目の当たりにし、おおいに落胆するだろう。ぶっつけ本番のプレゼンテーションがいかに評価に値しないか、痛切に思い知らされる。
 営業マンはリハーサル後に、念には念を入れて提案書を完成させる。これでプレゼンテーションの準備は万全である。  

14.オープニングの留意点
 さあ、プレゼンテーションの本番にのぞもう。営業マンは会場に早めに着き、心のゆとりを持つことである。開始前も含めて、オープニングで留意すべき点を説明しよう(図9-10)。


(1)座席の確保
 営業マンは会場ではとりあえず入口近くの席に腰を下ろすが、開始前には説得しようとする決定権者かキーマンの真正面に陣取っていなければならない。
 顧客先の担当者と親しい場合はあらかじめその旨を話して、決定権者かキーマンが座るであろう席の真ん前の席を確保する。だが、相手が思いがけないところに着席したら、一言断ってためらわずに席を移動する。決定権者やキーマンを横に眺めながらトークを展開したところで、商談の成立にはほど遠い。昔からプロポーズする相手は目の前と決まっているのだ。
(2)初対面者との接触
 営業マンは事前に参加者を確認しており、当日までに全員と名刺を交換し挨拶を交わしておくことが原則である。この接触の意義はきわめて大きい。
 とはいっても、現実には初対面の人がしばしば同席する。プレゼンテーションの開始に先立ち名刺交換と挨拶をすませ、軽い雑談でもよいからコミュニケーションに努める。
 言葉をまったく交わしたことのない参加者は、提案を拒否する側に回りがちである。営業マンは開始までのわずかな時間もぼやっとしておれない。
(3)謝意の表明
 人間関係はすべて礼に始まり礼に終わる。プレゼンテーションというビジネス行為においても謝辞を忘れてはならない。礼を欠いたばかりに反感を買ったのでは、元も子もない。提案内容がどんなに立派でも受け入れられないだろう。多忙な時間を割いてくれた参加者に対して、営業マンは開始時と終了時に心から感謝の意を表明する。
(4)メンバーの紹介
 何人かでチームを組んでプレゼンテーションにのぞむ場合、営業マンは率先してメンバーの紹介を行う。その分だけ顧客とのコミュニケーションのパイプが太くなる。多様な接点を確保しておけば、商談の進展を促すうえでも何かと有利である。
(5)核心への布石
 プレゼンテーションの冒頭で、営業マンは商談の経緯や提案の背景をごく手短に述べ、提案の趣旨を端的に伝える。そして提案内容の核心について、あらかじめ布石を打っておく。ただし、ここでは提案の方向性を示唆するだけで十分であろう。
 参加者は提案内容に関する予備知識を得るわけで、その後の理解がずいぶんと容易になる。

15.現実化部分がクライマックス
 営業マンの気持ちが徐々に高揚し、プレゼンテーションは佳境に入ってきた。一般に提案書の「現実化部分」がクライマックスに相当する。営業マンが顧客にすすめる自社商品とその利用方法が中心となる。
 営業マンは、シナリオのクライマックスを際立たせることに全力を注ごう。パフォーマンスやツールなども駆使し、その演出に独自の工夫をこらす。ここでリハーサルを繰り返した効果が実感できるはずである。営業マンの声の高さも大きさも最大値になる。

16.顧客説得のポイント
 プレゼンテーションで顧客を説得するためのポイントを説明しよう(図9-11)。
(1)参加者の水準への配慮
 営業マンは参加者の水準に配慮することだ。理解力が一番低いと思われる参加者が何とかついてこれるように説明する。プレゼンテーションで“脱落者”をつくってはならない。提案内容を理解できない参加者は、提案の受け入れを拒否する側に回る。


(2)説得の力点の変化
 日本人は妙に律儀な面があり、どうやら国民性のようである。提案書に記した内容は、もらさず説明しなければならないと思い込んでいる節がある。だが、それは間違いだ。
 例えば、営業マンの説明に対して顧客がかすかにうなずいたり、一瞬目が輝いたりする。営業マンはこうした顧客の反応を見ながら、臨機応変に説明すべきである。
 私が顧客へ提案営業を行う場合は、A3判の提案書フォームを用いる。顧客が関心を示した部分については突っ込んで説明するため、この1枚でたっぷり1時間はかかる。
 営業マンは顧客の反応に合わせて説得の力点を変える。これは当然のこととして聞き流してしまいがちだが、実はプレゼンテーションにおける最大のポイントが隠されている。
 あなたが賢明なら、すぐに気づくはずだ。そう、プレゼンテーションの場では提案書を見てはならない。提案書に目がいけば、顧客のささいな反応を見逃してしまう。営業マンは提案書ではなく顧客を見つづけるのである。
 営業マンが提案書を読むと、顧客の目もかならず手元の提案書に注がれる。それは顧客を説得するうえで必須となるアイコンタクトが失われることを意味する。
 さらに、話を聞くよりも字を読むスピードのほうが速いため、顧客は営業マンの説明などおかまいなしにどんどん先へ進んでしまう。
 営業マンの説明がようやく佳境に入るころ、顧客はとうに提案書を読み終えている。クライマックスとなる自社商品を提案する以前に、添付した見積書に目を通している状態だ。
 これでは営業マンの渾身のトークもパフォーマンスも生きず、フェース・ツー・フェースというプレゼンテーションの意義が失われる。そんなプレゼンテーションをするくらいなら、提案書を顧客に手渡すだけで事足りる。私がなぜリハーサルを入念に繰り返すのかといえば、提案書を見ずにプレゼンテーションを行えるようにするためだ。
 営業マンは、提案内容をソラんじていなければならない。結局のところ、自分の言葉として語るゆとりを持てるかどうかが決め手となる。営業マンが提案書に頼り、提案書を読んでいるかぎり、顧客の説得はできないと肝に銘ずるべきである。


 なお、顧客の反応に合わせて説得の力点を変えることには、双方向のコミュニケーションを実現するという意味合いが込められている。顧客と直接的に会話を交わさずとも、これは立派な双方向である。参考までに、プレゼンテーションの善し悪しを整理してみた(図9-12)。

(3)ユーモアの織り込み
 営業マンはプレゼンテーションの潤滑油として、トークのところどころに適度なユーモアを織り込むように心がけよう。顧客は提案の受け入れに関して、あくまでも仕事上の判断を下す。だが、顧客は顧客である前に“生身”の人間である。人同士が相対するプレゼンテーションでは、心をとらえる工夫が重要である。
 ユーモアには人の心をなごませ、場のムードを盛りあげる大きな効用がある。営業マンは顧客と人間的な共感に満ちた関係づくりに努める。ただし、決して大受けは狙わない。はずすと悲惨な状態に陥ってしまう。営業マンは日頃バラエティやお笑いなどのテレビ番組を見る際に、ユーモアのコツをつかむ気持ちを忘れないことである。

17.若手は大声で話す訓練を!
 私は企業研修で提案書作成のワークショップを取り入れている。そして、各自が作成した提案書に基づき、ロールプレーを実践する。
 とくに若い営業マンに対し、大きな声でプレゼンテーションを行うように指導している。訓練では、普段の10倍の大声で話すつもりでちょうどよい。大きな声を出しつづけると、やがて声に張りと伸びが感じられるようになる。態度にも落ち着きと迫力が出てくる。
 味のある枯れた説明は、仕事のみならず人生の経験が深まるにつれ、おのずと身につく。営業マンはあまりむずかしく考えないで、まずは大声で説明するように心がける。


 実際のプレゼンテーションで大声で説明するには、営業マンに自信がなければ不可能だ。そして、営業マンの自信の裏づけとなるのは提案内容が優れていて、しかもそれをソラんじていることである(図9-13)。
 本番で大声を出そうとすれば、営業マンは準備に最善を尽くさざるをえない。ここがきわめて大事な点である。営業マンは提案書の仕上げ作業を積み重ね、提案のリハーサルを繰り返す。こうした努力に裏打ちされていないと、体の底から自信がわいてこない。

18.提案書は削りに削って仕上げ
 私は、数回どころか十数回は提案書の仕上げを行う。提案の内容と表現の両面を徹底して磨きあげるのだ。仕上げの最終段階では顧客に話しかけるつもりで、ぶつぶつ言いながら作業を進める。この過程で提案内容が自分のものとして完全にこなれ、頭のなかにきちんと収まる。提案書の仕上げ作業とプレゼンテーションの予行演習を並行させていることになる。
 なお、提案書の仕上げ作業では、冗長な文章をどんどん削って文意をすっきりさせる。ぜい肉を削ぎ落とし、簡潔な箇条書きとしたい。
 出来あがった提案書を眺めると文章量は少ないが、行間にびっしりと意味が詰まっている。たった1行に10行の背景があればこそ、顧客の反応に合わせて突っ込んだ説明ができる。提案書は削りに削って仕上げると覚えてほしい。

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