第7講◇<STEP5>
提案のシナリオの設計
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 営業マンが具体化した内容について、提案のシナリオを設計するステップである。実際、同じ提案内容であっても話の持っていき方次第で、説得力に大きな差が出る。営業マンは顧客の特性に合わせて、効果的なシナリオを組み立てよう。
この記事は、私が「提案営業研修」で用いてきた事前課題図書に収めた原稿です。私の営業本の第一作『提案営業成功の法則』(日本実業出版社)に若干の増補を行ったものです。 1996年の刊行から相当な歳月が経ちましたが、いまだに通用する内容です。「提案営業」に関する基礎知識が得られると考えて掲載しました。
1.課題解決の手段と位置づけ
 「提案内容」のフェーズでもっとも重要なステップは、前講の「提案の内容の具体化」である。提案の内容とは、営業マンが顧客に提案しようとする自社商品が中心になる。それは顧客の課題解決の手段として適切に位置づけられたものでなければならない(図7-1)。顧客の課題に対する“答え”として、提案すべき商品を考える姿勢が大切だ。


 提案商品はハードだけでなく、ソフト、サービスのほか、これらの複合であるシステムなど多様である。商品が有形から無形になり、複合化が進むにつれて、営業マンは提案の内容を具体化する作業にますます労力を奪われる。
 そこで前講に引き続き、提案内容と商品について、もう少し掘りさげて解説しよう。

2.提案内容となる商品は5タイプ
 営業マンは高度化する一方の提案内容に対処しなければならない。顧客の課題との関係から見れば、提案内容となる商品には次の5つのタイプがある(図7-2)。


(1)既成商品の選択
 顧客の課題に応じて、既成商品のなかから最適な商品を一つだけ選択する。提案内容としてはもっとも単純である。
(2)既成商品の複合
 既成商品のなかから適切な商品をいくつか選択して複合する。提案内容の効果を高める狙いがある。ハード同士の組み合わせなら簡単だが、ハードにソフトやサービスを加えてシステムとする場合はかなり骨が折れる。
(3)既成商品の加工
 既成商品のままでは顧客の課題に応えきれない場合に、顧客のニーズを取り入れて加工することになる。
(4)標準商品の加工
 あらかじめ標準商品を用意しておき、そこに顧客のニーズを取り入れて加工する。イージーオーダーで手間を省き、納期の短縮とコストの削減を図る狙いがある。
(5)独創商品の追求
 顧客の課題に応じて、商品をオリジナルで生産する。オーダーメイドで商品の独創性を追求することになる。
 当然ながら後になるほど、提案内容は高度化する。

3.ノウハウの商品化が進展
 提案内容の独創性が求められる商品が増えつつある。例えば、注文住宅である。だが、商談の都度、営業マンが提案内容をゼロからつくりあげるのではあまりに効率が悪く、質の面でも疑問符がつく。住宅は、顧客の希望に応じて設計するといっても、無限の独創性が要求されるわけではない。そこで、企業は提案内容に関してある程度の標準化を図り、提案営業の効率向上に努めているのが現状だ。
 顧客が商品を購入する目的はかつてのように所有でなく、いまは利用にある。したがって、商品の「利用方法」というノウハウが、提案内容できわめて重要な位置を占めつつある。
 それはノウハウそのものが商品になるという意味である。欧米と比較して遅れが目立つ日本でも、ようやくノウハウに対して価値を認めはじめた。実際、コンピュータの営業活動ではハードより、それを使いこなすためのノウハウが決め手となっている。
 これからの提案営業ではノウハウの商品化を合理的に行えるかどうかで、営業生産性に大きな格差が生じるだろう。とくに高度な知恵が要求されるコンサルティングセールスは、その典型といえる。

4.流通営業の場合
 提案内容の高度化の傾向は、問屋や販売店を対象とする流通営業でも顕著である。メーカーが流通に商品をより多く扱ってもらうためには、商品の配荷や販売を後押しする必要がある(図7-3)。


 そこで、必然的に販売促進に関する提案に力を注ぐことになる。メーカーにとって、商品を店頭でさばくセルアウトのノウハウが決め手となる。例えば、売り場づくり、品ぞろえ、棚割り、陳列・訴求方法などに加え、集客、再来店、固定化、フェア、イベントなどのプランである。
 これらの提案内容の立案は標準化がむずかしく、とくに有力顧客に対しては「個別提案」が原則となる。これをすべて営業マンの負担とするのは酷である。まして提案書にまとめる作業は無理だと考えたほうが現実的である。
 一部の先行メーカーでは、ディーラーヘルプスやリテールサポートを制度や仕組みとしてすでに確立している。例えば、本社スタッフが営業マンの販売促進提案をきめ細かく支援したり、プロモーションデータベースを構築して運用するなどである。

5.内容を具体化するポイント
 提案内容の善し悪しが商談の成否を決定づける。そもそも自社の都合ばかりを優先していては、商談が進展するはずがない。
 提案内容を受け入れる顧客の側に明確なベネフィットがあるかどうかが問われる。提案内容が顧客に最終的に利益をもたらすものであれば、少なくとも反対はされまい。営業マンは顧客志向に基づき、顧客満足の実現を目指して提案内容を考え抜く。


 そこで、提案の内容を具体化する際に留意すべき5つのポイントを示そう(図7-4)。
(1)顧客利益の最優先
 営業マンが提案を行う際に、自社利益と顧客利益はしばしば一致しない。顧客の課題解決に焦点を合わせると、自社商品のほかに最適な答えがある場合だ。例えば、システムの提案や売り場の提案では、他社の商品どころかライバルの商品を組み込んだほうが効果的であったりする。
 こうした場合、営業マンは顧客の利益を最優先して提案する。あくまでも顧客志向を貫き、信頼の獲得に努める。今後の飽和市場では、顧客と長期に渡って継続的につきあうことが大事である。
 ある部品メーカーの研修でこの話をしたら、理想論ではないかと反論された。そうではなく、現実的な話なのである。顧客は豊富で詳細な商品知識を持っており、自分自身のベネフィットを高める最適解が分かっていると考えたほうがよい。
 営業マンの頭を顧客志向へ切り替えれば、むしろ提案のための機会は広がる。自社利益を優先するかぎり自社商品にとらわれ、結果としてビジネスチャンスを狭めてしまう。
(2)急がば回れ!
 新規顧客の開拓では、営業マンは何とか早く商談の成立にこぎつけようとする。そこで、自社商品の優位的特徴を一方的に訴求することになる。だが、自社商品を売り込む前に、顧客の現状に関して適切な提案を行うことを心がけよ。直販営業なら、顧客が保有するライバル商品の効果的な利用方法を進言する。流通営業なら、ライバル商品の効果的な陳列方法を指導するなどである。
 それではライバルを利するだけではないかという狭い考えを捨て、顧客の利益を最優先する。もちろん自社の売り上げにつながらないが、顧客との信頼関係は確実に形成される。以後の商談で主導権を握り、何かと有利に進めることができる。「急がば回れ!」である。
(3)将来的な満足の確保
 営業マンは商談の成立を急ぐあまり、顧客が受け入れやすい提案を行いたがる。とくにノルマに追われる営業マンは、目先の売り上げをしゃにむに取りにいく傾向が強い。
 だが、営業マンが提案する内容は顧客志向に基づき、将来に渡って十分な満足を確保できることが条件だ。変化の激しい時代であればこそ、明日を見すえた提案が望ましい。
 顧客のベネフィットを追求して本格的な提案内容とすべきところを、それでは決まりにくいからとレベルを落とし、大きな商談をみすみす失ってしまう。仮に提案は通ったとしても、顧客との信頼関係を損ねる。真のパートナーシップの確立など期待できない。
(4)マッチングへの配慮
 その逆の場合も、やはり問題である。どんなに優れた商品を提案したところで、顧客が使いこなせなければ意味がない。
 提案内容を考える際には、顧客ニーズと自社商品のマッチングに配慮する。自社商品の品質や機能に自信があるからといって、それらをすべて提案内容とするのは論外である。営業マンは顧客志向に基づき、余分な取り引きを求めたり過大な負担を強いてはならない。
 商品力や技術力に優れた企業の営業マンは、こうした誤りを犯しがちだ。ときに自社の商品や技術のオンパレードになっている提案書を見かけるが、提案営業というものがさっぱり分かっていない。
(5)付加価値の創造
 提案営業では、あくまでも顧客志向に基づいて高付加価値な提案内容を目指す。営業マンは柔軟な思考により、提案の内容を具体化しよう。顧客の表面的なニーズに対応するだけでなく、現状に対する深い洞察が不可欠である。提案のための機会をいかに広く深く発見したかで、提案内容の間口も奥行きも異なる。
 ここで営業マンが誤解してならないのは、自社利益だけを求めて付加価値の高い提案を行うわけではないという点である。自社利益しか眼中にない提案内容では、顧客に耳を傾けてもらうことすらできない。顧客はベネフィットを実感できないかぎり、提案に乗ってこない。
 営業マンは顧客志向へ頭を切り替え、顧客と自社の双方の利益がふくらむような提案内容を創造することだ。これが実践できるかどうかで、商談当たりの成約額のケタが違ってくるのである。しかも顧客満足が高い次元で実現し、それは営業マンの自己満足にもつながる。

6.話の組み立てで説得力に大差
 このステップでは、営業マンが具体化した提案内容を、どのようなシナリオで顧客へ提案すればより効果的かを検討する。同じ提案内容でも話の持っていき方次第で、説得力に大差が生じる。営業マンは提案先となる顧客の特性に合わせ、最適な提案のシナリオを設計しよう。
 すでに述べたように、私は原則として提案の内容の具体化の手順に従い、提案書を作成している。つまり、顧客の特性に合わせて、提案書のまとめ方を変えることはしない。
 ずぼらな理由でおしかりを受けそうだが、その手間が面倒だからである。また、提案のシナリオをわざわざ変えなくとも、説得にさほど不都合を感じない。つねに提案書の構成を一定にしておき、提案の場では顧客の特性に応じて話の前後を入れ換えたり、特定の部分を強調することで対応している。

7.プロポーズを積極的に演出
 だが、提案が営業マンから顧客へのプロポーズである以上、そこに何らかの演出があって悪いはずがない。少しでも余裕のある営業マンは、顧客の特性に応じて提案のシナリオを積極的に工夫してみよう。
 顧客はそれぞれ考え、性格、好み、関心のありかなどが異なる。営業マンが顧客の特性にきめ細かく対応すれば、その分だけプロポーズの成功率は高まる。
 とはいえ、自分の持ち味を殺してまで顧客に合わせる必要もない。提案のシナリオのほか提案内容の表現でそれなりの演出を行い、あとは提案行為を魅力的にして顧客の心をがっちりつかむようにする。

8.まず提案先となる相手を特定
 提案のシナリオを設計するステップで考慮すべきは、どのような相手が対象になるかである。顧客のなかで、実際に提案先となる相手を特定することが先決である。
 営業マンが確実に提案を通すには、提案の受け入れに関して最終的な判断を下す人物を探り出す。これが「決定権者」である。ここを明確にしないと提案先が決まらず、したがってシナリオを設計できない。
 だが、現実には営業マンが提案する相手を特定できないことがある。例えば、合議決裁が慣行となっている顧客では、個人の特定は不可能である。こうした場合は「キーマン」を探し出す。キーマンは決定権者の判断に重大な影響力を及ぼすからだ。会議で主導権を握ったり、最後に発言して結論づけてしまう人物である。
 決定権者もキーマンも不明のときは、提案書を受け取ってくれる担当者を意識するしかない。

9.顧客の性格特性へ対応
 次に相手の特性を把握したうえで、人を見て法を説くことになる。営業マンが対応すべき顧客特性にはいろいろな種類がある(図7-5)。一般には、地位特性、部門特性、職務特性、権限特性、性格特性、年代特性、性別特性などであろう。


 仕事上の提案といっても、相手は生身の人間である。「性格特性」への対応は簡単でありながら、商談で絶大な威力を発揮する。ここでは、論理派、現実派、感覚派の3タイプに顧客を分けよう。提案書の3部構成との関係から、顧客の性格にどのように対応するかについて説明する(図7-6)。
(1)論理派への対応
 提案書の「論理化部分」に重きを置く。商談の規模が大きくなるほど相手の地位が高くなり、手ごわい論理派が増える。とくに大手企業と大口商談をまとめる際には、論理派の管理者を相手にすることが多い。
 営業マンの提案に対してきわめて冷静に耳を傾けるので、ごまかしが利かない。論理の展開と整合性に留意し、論旨が明解な表現を心がける。提案内容は自信のある案に絞り込むほうがよい。
(2)現実派への対応
 提案書の「現実化部分」に重きを置く。理屈はもういいから、実際の内容を早く説明してほしいという現実派である。提案内容が強く関心を刺激するものでなければならない。
 さらに、現実派はきわめてシビアである。営業マンの情熱的な説得だけでは心を動かされない。実績、それも成功事例を数値で示すことが必須となる。「裏づけ部分」をもっとも重視し、客観的なデータを豊富に盛り込んでおく。提案内容はいくつかの案を提示して、比較する余地を残す。なお、リスク案を忘れないように…。


(3)感覚派への対応
 現実派の顧客と同様に、提案書の「現実化部分」に重きを置く。提案内容を感覚的に理解しようとする傾向が強いため、展開イメージをふくらませる。言葉に頼るよりは、ビジュアルを存分に駆使しよう。
 流行に対して敏感であるため、「裏づけ部分」にトレンドに関する資料などを盛り込むのも面白い。女性の社会進出が目ざましく、仕事でも相応の権限を持ちはじめている。相手が女性である場合に、感覚派かどうかを検討してみることはムダではない。提案内容はいくつかの案を提示して、選択する楽しさを与える。
 顧客の性格に応じて、提案書の3部構成のどこに重きを置くべきかが理解できただろう。

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