第6講◇<STEP4>
提案の内容の具体化
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 営業マンが決定した方向性に則して、提案の内容を具体化するステップである。営業マンは顧客の抱える課題を解決する手段として、自社商品を適切に位置づける。提案の受け入れにより顧客が享受するベネフィットを最大化するように知恵を絞ろう。
この記事は、私が「提案営業研修」で用いてきた事前課題図書に収めた原稿です。私の営業本の第一作『提案営業成功の法則』(日本実業出版社)に若干の増補を行ったものです。 1996年の刊行から相当な歳月が経ちましたが、いまだに通用する内容です。「提案営業」に関する基礎知識が得られると考えて掲載しました。
1.提案内容のフェーズに突入
 これまでに、①顧客情報の収集と整理、②提案のための機会の発見、③提案の方向性の決定というステップを踏んで、「提案準備」のフェーズを終えた。営業マンが情報力を駆使して、顧客に対する理解を深めていく過程であった。すでに提案内容のアウトラインが固まった。
 これからは、いよいよ「提案内容」のフェーズに入る。営業マンが企画力を活用して、④提案の内容の具体化、⑤提案のシナリオの設計、⑥提案書の作成と仕上げというステップで進める。
 本講では、提案の内容を具体化する作業に取り組もう。営業マンがこれまでに行ってきた一連の作業の延長線上にある。それは決定した提案の方向性に則して、提案書の作成に着手することでもある。

2.提案書作成を省力化
 私は、提案の内容を具体化する作業と、提案書を作成する作業を同時に行っている。したがって、提案の内容の具体化の手順が、そのまま提案書の構成になっている。しかも具体化の手順をつねに一定にしているから、おのずと構成も一定になる。これは面倒な提案書作成を省力化するうえで最大の要諦である(図6-1)。第一、考えた順序どおりにまとめるのは自然であり、気楽だともいえる。


 残念ながら、大半の営業マンは文章表現の習慣が身についていない。提案内容は何とか考えることができても、提案書にまとめることが苦手か苦痛な人が多いのだ。
 私の方法を取り入れるといつも同じ考え方、まとめ方になるので、提案書作成に習熟するのが早い。少しでも省いた手間は、提案の内容の充実に振り向ける。こうすれば商談の成功率が高まり、提案営業にさらに本腰を入れられるという好循環が実現する。
 提案の内容を考えることと提案書にまとめることは、そもそも切り離せない。そこで、本講では両者をいっしょに解説する。

3.論理化作業と現実化作業
 提案の内容を具体化するとは、顧客の抱える課題を解決する手段として、自社商品を適切に位置づけることである。
 言い換えれば、顧客の課題と自社の強みとの間に“接点”を見出し、それを明確な形に表現する作業である。顧客にとって魅力ある内容に仕立てあげることがもっとも大切だ。実際には営業マンが作成した「提案準備シート」を土台に組み立てる。


 ここでは論理化作業と現実化作業という2つの作業が骨格となる(図6-2)。これはそのまま提案書を構成する2つの部分となる。すなわち論理化部分と現実化部分である。
 私が企業研修のワークショップで用いている「和田創方式」の提案書フォームを紹介しよう(別紙)。私自身も営業活動で使っているこのフォームに沿って、作業の進め方を詳しく解説する。

4.論理化作業(論理化部分)
 論理化作業では、現状から出発して目標へ到達するための課題を導き出す(図6-3)。顧客の現状と目標を明らかにし、両者のギャップを克服するために顧客は何をなすべきかを考える。これが「課題」である。そして、提案の内容を具体化するうえで基本となる方針を打ち立てる。


(1)現状
 現状は提案の“出発点”であり、顧客に関する実態や状況、動向を認識して記述する。おもに負の現状に目を向け、「問題点」を中心にまとめることが一番のコツである。
 だが、正の現状にも目を向け、可能性をつけ加えることも忘れてはならない。たとえ的を射ていたとしても、顧客は営業マンから問題点を指摘されるだけでは面白くないはずだ。
 この件に関して、私には大失敗の経験がある。ある中堅企業のオーナー社長は、私がプレゼンテーションで問題点を列挙している途中でみるみる不機嫌になり、席を立ってしまった。
 営業マンが問題点を指摘するからには、顧客との人間関係が形成されていることが前提となる。人は相手を信頼すればこそ、耳の痛い話にもうなずくのである。ここは、負の現状に正の現状を少し織り交ぜておくのが無難だろう。
(2)目標
 目標は提案の“到達点”であり、顧客の理想とする姿や目指すべき状態を設定して記述する。顧客が夢や希望を託せる事柄をできるだけ高らかに掲げることが一番のコツである。
 目標の設定は、提案の受け入れを前提として行う。つまり、当社とつきあえばこうした目標が実現しますよ、と暗示するわけだ。
 ところで、現状はなぜ問題点を中心にまとめ、目標はなぜ高らかに掲げるのだろうか。プレゼンテーションにおけるインパクトは、現状と目標のギャップが大きいほど強く感じられるからである。営業マンははじめに顧客の関心を一気に引きつけ、この後に続く現実化部分への期待感を高めよう。
(3)課題
 現状と目標のギャップを克服するために、顧客がなすべきことを概念のうえで明らかにし、ずばり指摘する。課題は、営業マンが行う顧客の“診断”に相当する。
 なお、課題の明確化にあたっては、問題点を言葉づらで裏返すのでなく、目標の実現に向けて可能性を活用できないかと検討する。顧客の可能性を伸ばしていける提案が好ましい。
 顧客が抱える課題はさまざまである。そこで、営業マンは重要度や緊急性を考慮しつつ、自社の強みを生かして解決に貢献するという前提でプライオリティをつける。これが絞り込んだニーズにほかならない。論理化部分における決め手は、この「課題」の的確さである。
(4)方針
 方針は提案の“羅針盤”であり、課題解決の方向性やあり方を樹立して記述する。この後に続く現実化作業を的確に方向づけ、論理化作業から現実化作業への移行を円滑にする役目がある。ここをきちんと押さえれば現実化部分の必然性が高まり、顧客への説得力が倍加する。
 方針の樹立は、当然ながら自社商品の提案を念頭に置いて行う。ただし、この方針の欄は必須ではなく、課題からすぐに現実化作業へ移行してもよい。
 論理化作業(部分)でもっとも大切なことは、①現状、②目標、③課題という三段構えで、着実に論理を積み重ねることだ。

5.現実化作業(現実化部分)
 現実化作業では、現状から出発して目標へ到達するための内容を生み出す(図6-4)。顧客の抱える課題を解決するために、自社商品をどのように役立てるかを検討する。それは顧客の目標を実現しうる具体的な内容でなければならない。


 だから、営業マンが明確化した顧客の課題と照応するように、内容を組み立てる。その意味で、現実化部分とは顧客の課題に対する営業マンからの“答え”であるといえる。また、課題に基づいて考える以上、おのずと提案の全体に渡ってスジを一本通すことになる。
 提案内容とは、もとより営業マンが顧客に提案する全体的な考えを指すが、狭く解釈すればこの「現実化部分」だ。まさに提案の核心であり、商談を成立させるには何よりもここをしっかりと固めよう。
 顧客の課題を解決し、ベネフィットを実現するのは、現実化部分である。営業マンが顧客に受け入れてもらいたいのも、現実化部分にほかならない。
(1)ご提案内容
 営業マンが頭を巡らせ、顧客のベネフィットに直結する知恵の体系を提供する。それは営業マンから顧客に対する“愛”の表明である。自社と自分をアピールし、貴社と貴方を幸せにしてみせますとプロポーズするわけだ。
①名称(件名、件案):提案内容を的確に伝えるだけでなく、魅力的なネーミングを心がける。名称によって、顧客が受ける印象がまるで違ってくる。
②内容(商品、施策):営業マンが顧客に提案する自社商品とその利用方法である。商品はハードにソフトとサービスを加えた「システム」とする。商品の性格により、この内容にきわめて高度な独創性が求められる。営業マンは専門的な商品知識を持つだけでなく、企画力を存分に活用しよう。また、流通営業では、内容が販売促進のプランなどの施策になりがちである。これも立案になかなか骨が折れる。
③方法(手順、段取り):内容を実現するための方法である。方式、仕組み、手順、段取り、日程を含む。内容を支えるのは、こうしたリアリティである。とくに内容が施策である場合に、それを実行する主体は顧客の側になる。営業マンはスケジュールの作成、予算の計上、体制の編成などを行い、成功への段取りを示そう。
④効果(利益、利便、利点):提案を受け入れることにより、顧客が享受する最大限のベネフィットである。提案が果たすべき役割ともいえる。営業マンがこの効果を検討する過程で、内容が多角的な視点から眺められ、徐々に厚みを増す。大がかりな提案では、それを受け入れる顧客は多大な投資が必要になる。決断を下す立場にある経営者や管理者が気にかけるのは、費用に対して効果がどのくらい期待できるかだ。したがって、効果はできるだけ数値を用いて示す。
⑤費用(価格、条件):取り引きや売買に関する条件である。顧客が提案を受け入れる際の重大な目安となる。この条件は別添の「見積書」としてもよい。提案内容が評価されても、価格などの条件面はしばしばその後の交渉に委ねられる。何度も数値が変更になりそうなら、提案書に記載しないほうが無難であろう。
⑥備考(補足、特記事項):現実化部分を補足したり強調したい場合に記す。提案に広がりと奥行きを与えるものだ。この備考欄は何かと便利であり、営業マンは使い方を積極的に工夫しよう。現時点で約束できない事柄についても、顧客の記憶にとどめるという芸当が可能である。また、とくに内容に関して付帯的な提案を行う際にも重宝である。例えば、代替案や発展案を提示する。さらに、提案の受け入れ後のフォロー案やリスク案を提示するなど、用途はさまざまといえる。
(2)参考資料
 現実化部分における参考資料とは、おもに「展開イメージ」である。言葉だけでは内容を理解させにくい、もっと微妙なニュアンスを伝達したいという場合には、多彩なビジュアル要素を駆使して表現する。例えば、商品はカタログの切り抜き、システムはフローチャート、プランはイラストで提示するなどである。
 以上、現実化作業(部分)では、提案する自社商品とその利用方法を最大の“売り”として際立たせる。そして提案の受け入れにより顧客が享受するベネフィットを描き切る。つまり、もっとも重視すべきは「内容」であり、もっとも強調すべきは「効果」である。これは提案の全体を通じた要諦でもある。

6.裏づけ作業(裏づけ部分)
 提案の内容を具体化するには、すでに述べた2つの作業を行えば足りる。しかし、プレゼンテーションにおける顧客の効果的な説得という観点から、参考資料による裏づけ作業が不可欠となる(図6-5)。


 提案書の裏づけ部分は、提案内容に関して顧客へ信頼と安心を与える“保証書”の役目を果たす。パソコンに保証書がついていなければ、だれも購入しないだろう。提案内容とて同様である。
(1)参考資料
 裏づけ部分における参考資料とは、おもに「数値データ」である。提案の内容を具体化する過程で参考にした情報、提案の正当性や有効性を証明するうえで役立つ情報などを盛り込む。
 景気が低迷し、多くの企業は業績不振にあえいでいる。自信を失いかけている顧客を説得するには、何よりも「実績」を提示することが手っ取り早い。なお、実績は正確さが命であり、引用した数値に誇張があれば顧客をあざむく結果になる。
 実績のなかでも、既存顧客の“成功事例”は威力が絶大である。だが、最近は企業の資本関係や提携関係が複雑に入り組んでいる。成功事例が顧客のライバルであったというのでは、逆効果になる。また、引用するからには、既存顧客の了承もかならず取りつけておく。
 裏づけとする情報は、第三者による客観的な根拠がほしい。営業マンが自ら提案内容を裏づけるのでは、保証とならない。例えば、新聞や雑誌の記事、そこに掲載された識者の意見など、情報の公正さと権威が決め手だ。

7.和田創方式の提案書とは…
 提案書は、論理化部分、現実化部分、裏づけ部分の3つの部分で構成する。これこそが「和田創方式」の提案書である。
 現実化部分は提案書で最重要の位置を占め、プレゼンテーションでもクライマックスとなる。左側の論理化部分と右側の裏づけ部分で、真ん中の現実化部分をはさみ込むのである。
 本講で紹介したフォームは、論理と裏づけが的確であれば、顧客は提案を受け入れざるをえないように工夫されている。拒否する理由が、提案書のどこにも見当たらないのである。ただし、費用の欄を除いての話である。

8.論理の一貫性が最重要
 提案の内容の具体化では、論理の一貫性がもっとも重要である。それは提案営業を行う営業マンの能力の核心に位置づけられる。提案の全体的な考えが論理的に構築されていないかぎり、顧客の説得は不可能といえる。
 提案の受け入れのあり方を振り返っても、大半の顧客は会議の場などで言葉によって検討する。提案書が感覚的な訴求に片寄っていては、全員を納得させることはむずかしい。提案の全体を貫く、太くて強い論理の骨格がぜひとも必要になる。これは営業マンが取り組む商談の規模が大きくなるほど、切実といえるだろう。

9.なぜ提案書が必要なのか?
 営業マンが提案書を作成して顧客へ働きかける商談スタイルは、契約の観念が発達した欧米のビジネス社会では珍しくない。かたや日本のビジネス社会では、営業マンがあうんの呼吸を大切に、顧客と以心伝心で商談を進めてきた。
 しかし、ここにきて国際化の洗礼を受けており、景気の後退や競争の激化にも見舞われている。強い危機感を背景に、営業マンが商談スタイルを見直そうとする動きが急である。近い将来、日本でも提案書を用いた営業活動が当たり前になるだろう。
 そこで、環境の変化にともなう営業方法の転換を前提として、セールストークの力点との関係から、提案書の必要性について言及しておきたい(図6―6)。


(1)成長市場でのトーク
 バブル崩壊前の成長市場では営業マンが顧客一般を念頭に置き、自社や自社商品がどんなに優れているか「優位的特徴」を訴求するというセールストークが主流だった。いわゆるセリングポイントを押しまくる商談スタイルである。
 このやり方は顧客に対してそれなりの説得力を持つことができた。なぜなら顧客の関心が商品の購入そのものに向けられ、しかも商品に明確な差異があったからである。
 ここで優位的特徴が自社の側に備わり、どの顧客にも共通して訴求できる点を理解しておく必要がある。それゆえに“自慢話中心”のセールストークだったと、私はかねがね指摘してきた。また、だから「印刷物」としてあらかじめ用意することが可能だったのだ。実際、会社案内や製品カタログ、商品パンフレットは、最初のページから最後のページまで自慢話に満ちあふれている。
 ところが、市場も商品もそして顧客も様変わりしてしまい、この新しい環境に適応する営業方法を模索し実践することが急務となっている。
(2)飽和市場でのトーク
 バブル崩壊後の飽和市場では顧客が個性的で実質本位になり、自社にとって都合のいい顧客一般などは存在しない。営業マンが商談の場で相対しているのは、文字どおり“個客”である。
 しかも商品が各社ともほぼ横並びになり、顧客の関心が商品の購入から利用へ移るなかで、従来のセールストークは説得力を失った。今日の顧客は、営業マンが熱心に訴求する優位的特徴の一歩先、すなわち商品を利用することで自分自身が享受できる「ベネフィット(図では利益のこと)」にしか関心がない。
 ところが、ベネフィットは優位的特徴と異なり、自社の側でなく顧客の側に属する点を理解しておく必要がある。さらに大変やっかいなことに、顧客ごとにマチマチである。それゆえに“個客本位”のセールストークに改めるべきだと、私はつねづね主張してきた。
 営業マンがベネフィットをありありと描写しないかぎり、顧客の共感と信頼は得られない。そしてそれを可能にするのは、営業マンの手になる「提案書」を置いてほかにない。

10.ベネフィットの描写が目的
 商品が売れた時代は過ぎ去り、商品を“売る”時代がやってきた。営業マンが提案書の効力の大きさに注目しはじめ、商談の場ではさまざまな提案書が飛び交っている。また、パソコンの普及とソフトの充実により、提案書の表現面は格段に進歩した。なかには目を見張るほど美しいビジュアルなものも見かけるようになった。
 だが、提案書のどこを探しても顧客のベネフィットがうたわれていない。かりにあったとしても申し訳程度でひどく淡白である。こうした提案書は、商品パンフレットの切り貼りの域をまったく出ていない。提案書とは名ばかりで、その実態は自社都合を優先させた、営業マンの一方的な自慢話に終始している。
 極論すれば提案書を作成する目的は、印刷物では不可能に近い、顧客のベネフィットを描写することである。特定の顧客が享受するベネフィットは、その顧客に向けて作成した提案書によってしか表現できない。知子さんの幸福は、知子さんのためにしたためたラブレターによってしか表現できないように…。
 営業マンがここを押さえないと、せっかく作成した提案書も顧客の説得に生かせず、商談を成功へ導く使命も期待はずれになる。手間がかかるわりに効果を実感するには至らないから、多忙な営業マンや文章が苦手な営業マンは嫌気が差して放り出すことになる。  

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