第5講◇<STEP3>
提案の方向性の決定
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 営業マンが発見した機会に基づいて、提案の方向性を決定するステップである。あくまでも自社の強みを生かし、顧客の抱える課題の解決にどのように貢献するかを検討しよう。これで提案内容のアウトラインが固まるはずだ。
この記事は、私が「提案営業研修」で用いてきた事前課題図書に収めた原稿です。私の営業本の第一作『提案営業成功の法則』(日本実業出版社)に若干の増補を行ったものです。 1996年の刊行から相当な歳月が経ちましたが、いまだに通用する内容です。「提案営業」に関する基礎知識が得られると考えて掲載しました。
1.課題解決の方針を樹立
 営業マンは顧客情報を収集して分析し、提案のための機会を発見した。本講では「提案準備」のフェーズにおける締めくくりとして、提案の方向性を決定する。自社の強みを生かして、顧客の抱える課題の解決に貢献することを検討すればよい。
 提案の方向性とは、顧客の課題を解決する方針にほかならない。さらにライバルとの戦いを制するため、どこに提案の“勝機”を求めるかということだ。それでは、提案の方向性を決定する手順について解説しよう(図5-1)。


①自社の確認:自社の強みと弱みを確認する。すでにライバルについては、提案のための機会の発見に直結する弱みに重きを置いて認識した。自社については、強みに重きを置いて確認する。なぜなら、自社の強みを生かして顧客の課題の解決に貢献するからだ。また、ライバルとの戦いでは、強みを武器とするほかに展望が開けない。
②課題解決への貢献:顧客の抱えるすべての課題の解決に貢献できることが理想だが、現実的には不可能である。おもにどの課題の解決に貢献するか、あくまでも自社の強みとの関連から絞り込む。提案営業では、自社商品を課題解決の手段として適切に位置づけ、顧客を説得することになる。
③提案の切り口:解決に貢献すべき重点課題に基づき、提案内容のガイドラインを定める。提案にあたり、基本となる考えである。
④提案の内容:提案の切り口に則して、提案内容のアウトラインを固める。提案の骨子や組み立てが明らかになれば十分である。その詳細は、次の「提案内容」のフェーズで具体化する。
⑤顧客の利点:提案の受け入れにより実現する顧客の利点を検証する。顧客満足を目指す提案営業では、このベネフィットをしっかり押さえておく。
⑥自社の利点:自社の利点についても検証する。最終的に顧客と自社の双方にとって利点のある提案内容でなければ意味がない。
⑦提案上の困難:提案には何らかの困難がともなうのが普通である。これまでの面談の感触から、事前に予測しておこう。
⑧説得の切り札:予測した提案上の困難と対応させて、説得の切り札をかならず用意する。この準備を怠ると、クロージングに支障を来す。
⑨役割分担と段取り:提案の受け入れ後における自社と顧客との役割分担、実行への段取りをおおよそ設計する。コンピュータシステムや住宅などの商品では、契約がすんでから生産に着手する。また、流通営業では販売促進提案が中心となり、施策の実行にあたって組織を編成したり予算を計上する。いずれの場合も顧客の協力が欠かせない。互いの責任を明確にし、商品の生産や施策の実行の過程で発生しがちなトラブルを未然に防止する。

2.情報分析の結果を書面に整理
 ここまでの作業が終了したら、収集した情報とそれを分析した結果を書面にまとめる。営業活動や商品の特性、顧客の特性に応じて、独自のフォームを工夫するとよいだろう。
 参考までに、私が企業研修のワークショップで用いている「重点顧客への提案準備シート」を紹介しよう(図5-2~4)。これは流通営業向けのフォームであるが、直販営業でも基本的な構成は変わらない。項目に若干のアレンジを加えるだけですむ。







 一見遠回りで面倒なばかりのようだが、この作業を徹底することで提案内容の的確な方向づけができ、結果として商談の成功率がおおいに向上する。頭のなかで考え抜いたつもりでも、実際に記入しようとすると、自分の情報が不足していたり顧客への理解があいまいであることに気づくだろう。
 提案準備シートがきちんと埋まるようなら、営業マンは情報力に自信を持ってほしい。提案営業は半ば成功したも同然である。

3.準備シート記入のポイント
 「提案準備」のフェーズで行った作業の手順どおり、ブランクに記入していく。これまでの解説の繰り返しになるが、提案準備シートへの記入のポイントをごく手短に述べよう。一歩ずつ段階を踏んで、着実に分析を深めていくことが肝心だ。
①顧客情報の収集と整理:
 営業マンは訪問を通じて、名刺はもちろん会社案内や業務案内を入手している。また、面談を通じて、提案に直結する有益なヒントも仕込んでいる。さらに、データベースなどを利用して、業界地位や財務内容も把握している。これでブランクのほとんどは埋まるはずだ。
 代表者や決裁者、担当者については、誕生日や趣味、家族など、仕事以外でも商談にヒューマンな要素を加えられる事柄があれば記入してもよい。これらは顧客と良好な人間関係を形成するうえで役立つ。
 経営と営業における際立った特徴を把握する。これらは顧客の基本的な方針や姿勢を反映するものであり、提案の方向性に影響を及ぼす。流通では、店舗とマーチャンダイジングが必須となる。また、自社のライバルとなる仕入れ先を洗い出す。取り引きの実績がある既存顧客の場合は、平均の月商のほか、最高と最低の月商も合わせて記入する。
②提案のための機会の発見:
 業界、商圏、客層、仕入れなど、顧客に関する現状をその変化に注目して整理する。既存顧客であれば、自社との取り引きにおける質的・量的な変化について記入する。とくに主力商品の取り引きがどう推移し、どんな状態にあるかは重大である。
 また、営業マンが顧客と共通の認識を持つに至った目標を設定する。もしくは、営業マンが考える顧客の理想的な姿や状態を描写する。そして、顧客が直面している問題点を、経営、売り場、商品、客層、仕入れなどについて把握する。さらに、提案のための機会の発見に直結するライバルの弱みを認識しておこう。これらを踏まえて、顧客がいま抱える「課題」を導き出すことができる。
③提案の方向性の決定:
 自社の強みを確認し、顧客の課題に対して生かすことを考える。課題解決にどのように貢献すべきかが分かれば、おのずと提案の切り口が定まり、内容の概略が固まる。
 さらに、この提案によって実現する顧客と自社の双方の利点を検証する。また、提案上の困難を予測して列挙し、それぞれについて説得の切り札を用意する。最後に、提案の受け入れを前提として、双方の役割分担と実行への段取りもまとめておこう。

4.営業マンの情報活動を標準化
 こうしたフォームを提供することで、営業マンの情報活動がずいぶんと標準化される。営業マンの教育にも有効であり、情報力だけでなく表現力の強化につながる。記入ぐせがつけば、大半の営業マンにとって最大の関門である「提案書作成」を乗り越えることができよう。
 「提案準備」のフェーズにおける最大の狙いは、顧客を正しく理解して、それに基づいて商談を進めることである。営業活動は本格的な知恵比べの時代に突入し、営業マンは情報力が命になりつつある。提案準備シートに記入すれば、まさに“頭で稼ぐ”という実感がわいてくるだろう。

5.コンサルティングセールス
 提案営業のなかでも、顧客へひときわ高度な知恵を提供する営業方法を「コンサルティングセールス」と呼ぶ。
 ところで、世にコンサルタントという専門職がある。その最低限の条件は何かといえば、顧客の課題を明確にすることである。経営コンサルタントは顧客先企業の経営上の課題を指摘し、マーケティングコンサルタントはマーケティング上の課題を指摘することができなければ務まらない。提案営業でも顧客の課題を明確にすることは、営業マンの能力の核心に位置づけられる。

6.目標実現の大前提とは…
 課題とは、営業マンが把握した問題点を、目標を実現するための前向きな概念へと昇華させたものである。つまり、理想とする姿や目指すべき状態を目標として設定したうえで、それを実現するために「なすべきこと」は何かを簡潔に提示する。課題を明確にすることは、顧客の目標を実現する大前提である。
 医者の仕事にたとえれば、課題は“診断”に当たる。そして、名医は診断の的確さゆえに、患者から絶大な信頼を寄せられる。提案営業に取り組む営業マンが課題を的確に指摘することができれば、間違いなく顧客から信頼される存在となる。
 コンサルティングセールスに見るとおり、今日の営業マンにはきわめて高度な知的能力が要求されている。

7.事前に公開情報に接触
 営業マンが情報を収集する際には、顧客との接触によるのが基本である。しかし、それだけで十分なわけではない。営業活動では、訪問に先立って一通りの知識を頭にたたき込んでおき、面談で個別の情報を掘りさげるという役割分担が理想であろう。
 営業マンがあまりにも初歩的な質問を発してばかりでは、顧客に愛想を尽かされる。事前にデータベースなどを通して公開情報に接しておこう。顧客が大手や中堅の企業であれば、かなり詳しい内容がつかめるはずだ。業界の実態や動向についても同様である。これにより営業マンは顧客と同じ土俵にのぼり、すみやかに商談を進めることができる。
 営業マンは公開情報にもっと目を向けるべきだ。ちょっとした利用のコツを会得するだけで、情報力は格段に向上する。だれもが日常的に接する公開情報は、宝の山なのである。

8.外部情報源の特性と利用法
 情報収集ではまず内部資料に当たり、不足した情報を外部情報源に求める。できるだけ多方面から広範に情報を仕込む必要がある。
 どの企業も顧客や営業活動に関する情報はそれなりに蓄積している。新規顧客の場合でも、内部資料のなかに参考とすべき貴重な情報が見つかる可能性がある。ここでは外部情報源の特性と利用の仕方について、簡単に説明しよう。
①人情報:顧客はもとより、その取り引き先、業界関係者などから得る情報である。当然、商談に直結する突っ込んだ内容が期待できる。ナマの声を聞くわけだから、情報の鮮度と独占性は高い。だが、たぶんに主観的であり、うのみにすると危険だ。
②街情報:通り、店、盛り場などの現場で、観察を通じて得る情報である。自ら体験する一次情報だから鮮度がもっとも高い。情報センスを磨くつもりで、問題意識に基づいて主体的に収集する。
③媒体情報:新聞・雑誌、業界紙・専門誌、書籍などの印刷媒体、テレビ・ラジオなどの電波媒体がある。とりわけ業界紙や専門誌は商談に役立つ情報が豊富に得られる。新規開拓に取り組む営業マンにとって、これほど頼もしい情報源はない。媒体情報は訪問や面談の際に格好の話材となる。顧客が関心を持ちそうな記事を切り抜いて提供しよう。
④施設情報:図書館にも多様な種類があり、業界の図書館はとくに便利である。業界に関する最新で精緻な情報のほか、所属する企業の情報もそろっている。大手企業では自社内に充実した資料室を整備しており、これを利用しない手はない。
⑤通信情報:これからの情報源の主役は、何といってもパソコン通信ネットワークとオンラインデータベースである。データベースで新聞記事などを検索し、ネットワークで人に当たって裏づけをとったり情報を掘りさげるという役割分担が理想的である。

9.営業マンの実戦的な情報源
 営業マンにとって実戦的な情報源の具体例をいくつか挙げよう。
 見込客をもれなくリストアップするには、会社録や人名録などの市販の名簿が重宝である。テリトリー内の見込客をリストアップするには、職業別電話帳が使い勝手がよい。詳細な地図もあなどれない。
 アプローチをかけている見込客については、企業・人事データベースがきわめて便利だ。
 成約の直前にこぎつけた顧客の信用状態を確認するには、取り引き銀行や取り引き業者、業界団体や同業者、金融機関調査部や興信所などが比較的信頼が置ける。法務局や役所に足を運ぶのも手である。  

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