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第4講◇<STEP2> 提案のための機会の発見 Copyright ©2015 by Sou Wada |
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1.情報収集の仕上げを 前講では、営業マンが訪問や面談を通じて顧客に関する基礎的な情報を収集し、顧客台帳や新規顧客開拓カードなどに整理した。この段階で顧客像がかなり明確になり、有望な見込客として認識されている。 だが、入手した情報はまだ通り一遍で表面的なものにすぎず、提案営業を的確に方向づけるうえで不十分である。商談を成功へ導くためにはさらに価値の高い情報が必要であり、営業マンは情報収集の仕上げを行う。 2.潜在ニーズを掘り起こし 提案営業は、顧客に購買意欲がないことが前提になっている。営業マンが自ら顧客へ働きかけ、潜在ニーズを掘り起こしていくわけだ。営業活動におけるこうした作業を「ビフォアセールス」とも呼び、商談の成功率を大きく左右する。 ![]() 実際のところ、明確なニーズを持っている顧客はまれである。顧客自身も気づかない購買意欲を顕在化させることが先決となる。営業マンはどのような手順で行ったらよいのだろうか(図4-1)。 3.顧客の現状を問い直し 提案のための機会の発見とは、顧客の潜在ニーズを掘り起こす作業そのものである。それは営業マンが顧客とともにその「現状」を問い直すことによって可能となる。 顧客は現状に満足しているわけではないが、少なくとも否定はしていない。大筋で肯定といったところであろう。顧客が現状に不満を感じないかぎり、改善の欲求は起こらない。また、現状に不備を見つけないかぎり、充足の欲求もわいてこない。 そこで、営業マンは顧客が現状に対して疑問を抱くように誘導する必要がある。 4.問題点をより多く把握 問題点とは、顧客にとって好ましくない現状をもたらしている原因である。営業マンは顧客の「負」の現状を洗い出し、これらの要因の把握に努める。その際、不満や不備など、「不」のつく情報に注目するとよい(図4-2)。 ![]() この問題点は、提案のための機会に直接的に結びつく。営業マンがリードする形で問題点を浮き彫りにし、顧客と共通の認識を持つことが重要である。両者が問題点を多く把握するほど、営業マンにとってビジネスチャンスが広がる。 だが、こうしたネガティブなものだけが問題点だろうか。私はこれを後向きの問題点と呼んでいる。これまでの提案営業の著作や研修における指導はこの範囲にとどまっている。環境が変化し競争が激化する一方の今日では、提案営業のあり方も見直していかなければならない。顧客のほうも営業マンから後向きの問題点を掘り返されるだけでは、なかなか意欲がわいてこないだろう。 5.問題点を前向きに形成 これからの提案営業では、むしろ問題点を前向きに形成する作業に重きを置く。そのためには、営業マンが顧客とともに「目標」を見出し、共有する。顧客が理想とする姿、目指すべき状態を目標として明確に設定するわけだ(図4-3)。 ![]() この目標と現状の間には、当然ギャップという距離が存在する。この距離が新たに形成された問題点である。営業マンが目標を適切に設定することができれば、まさに問題点を無限に創造することができる。今後の市場環境を考えれば、顧客と長期に渡って継続的につきあうことが重要になる。問題点の形成は、その大前提といえよう。 営業マンが後向きの問題点を把握するだけでは、提案のための機会はおのずと限定される。これでは真の意味の「創注型営業活動」とはならない。これからは目標を設定し、それとの対比において前向きに問題点を形成する方向へ転換すべきである。 そして営業マンが提案を通じて、後向きの問題点はもとより前向きの問題点の解決に貢献する。つまり目標の実現を支援して、高次元の顧客満足を可能にするのだ。顧客から感謝されることが提案営業の醍醐味であり、営業マンの喜びといえる。「負」の現状を解消することで得られる顧客満足には、そもそも限界がある。 6.質問が決め手 顧客の購買意欲を顕在化させる決め手は、営業マンの効果的な「質問」である。とくに提案営業という営業方法では、質問が上手な営業マンは概して成績も優れている。営業マンは質問を通じて顧客に現状を問い直させ、顧客が自ら問題点を認識するという方向へリードしなければならない。 ![]() ところが、大半の顧客は「負」の現状について口が重いものだ。なかなか本当のことを話してくれない。質問の巧拙が重要になり、質問話法を標準化する意味もここにある。なお、質問の効用は、現状への気づきを促して潜在ニーズを掘り起こすことにとどまらない(図4-4)。 質問が顧客の関心に触れるものであれば反応がかならず表れ、関心のありかや度合いが分かる。営業マンがそこに踏み込めば、良好な人間関係を形成できる。相手に対して興味や親身さを表明することにもなる。また、顧客への質問という形をとりながら、営業マン自身の考えや意見をそれとなく伝達することもできる。 営業マンが質問を駆使することで、提案営業は確実に進展していくのである。 7.ヒアリングの技術が大事 さて、質問を上手に行ううえで、「ヒアリング」の技術を身につけておくことが大事である。ヒアリングは直訳すれば「聞き取り」だが、顧客との関わりを深めていく行為でもある。 すでに述べたように、営業マンが顧客から情報を収集するには効果的に質問を投げかける。あくまでも自然な会話のキャッチボールを心がけながら、収集すべき情報の項目を一つずつ着実にクリアしていく。それは顧客の返事に応じて、営業マンが関連する情報を提供できるかどうかにかかっている。 ヒアリングを円滑に行うためには、営業マンと顧客との間に協調的な人間関係ができていなければならない。密度の濃い情報の交換を通じて顧客と共感に満ちた時間を分かち合えたとき、必要な情報はすべて収集できているはずだ。 8.情報の間口よりも奥行きを! しかし、顧客がどんなに良質の情報を豊富に持っていたとしても、営業マンのヒアリングの能力が低ければ、得られる情報は半減してしまう(図4-5)。 ![]() ヒアリングの能力とは、つまるところ質問の適切さである。質問が的を射たものであれば、収集する情報の質が高まり量も増える。あらかじめ顧客に関する予備知識を仕込み、質問項目を用意して、その場の状況に応じて質問を柔軟に繰り出していく。 営業マンがあまり性急に話を聞き出そうとすると、かえって逆効果になる。ヒアリングは、きわめて人間臭い行為である。顧客も生身の人間であるから、まず相手の感情を尊重しよう。基礎的な情報は入手しているわけだから、情報の間口を広げるよりも奥行きを深めることに留意する。 その決め手となるのは、顧客の回答に応じてタイミングよく発する営業マンの「追加質問」である。だが、単に質問を重ねるだけだと尋問調になり、場が白ける。 9.情報の真偽や価値を見定め 営業マンは、顧客の話の内容がまず正確であるかどうかを判断し、次いでその価値を評価する。したがって、熱心に耳を傾けるだけでなく、顧客の表情や態度に対する観察を怠ってはならない。つねに情報の中身を吟味する姿勢を持つことだ。なかには情報を誇張したり、ねじ曲げて提供する顧客もある。顧客の気質や性格を考慮しながらヒアリングを行わないと、思わぬ落とし穴にはまり込む。 営業マンは顧客の話の内容に不安や不信を感じたら、聞き方を変えてみたり、いったん別の話に移ってから聞き返す。もしそこで回答が微妙に変化するようなら要注意である。多角的に質問をぶつけ、本音に迫っていこう。 ヒアリングでは、聴覚に加えて視覚から入る情報も貴重である。営業マンは原則として顧客の顔を見る。相手への共感や敬意を前面に押し出して、顧客の口を滑らかにする。同時に、その表情や態度から情報の真偽や価値を見定めるわけである。 10.メモの技術が不可欠に… 営業マンがヒアリングで突っ込んだ話を聞くからには、それを書き留める「メモ」の技術が不可欠である。顧客へどんなに適切に質問を行い、豊富に情報を引き出したとしても、それが記録されていなければ努力が台無しだ。 提案営業のための情報収集に限らず、メモは情報の“取り入れ口”である。ヒアリングによって得た情報をすべて忘れずに覚えていることは困難である。メモは頭のなかの記憶を呼び覚ますきっかけとなるとともに、記憶を補って情報の確かさを高めてくれる。 しかし、メモはだれにでもできそうで実際に行うとなるとむずかしさを痛感する。相手の話にメモが追いつかないことが最大の理由である。せいぜい話の2割程度がメモできる限界ではないか。 ヒアリングでは話の内容を評価しながらメモするわけだが、それは後追い作業になる。営業マンがメモしているときには、顧客はすでに次の話に移っている。前の話をメモしながら、いまの話を聞き取るというニつの作業を並行させなければならない。 メモではむろん話をすべて記録する必要はなく、ポイントだけに絞り込む。営業マンは自分なりにメモの仕方を工夫したり省力化しよう。思い切り大胆に記し、話の成り行きや要点を浮かびあがらせる。人に見せるための作業ではないから、要するに自分が分かればよい。あとでメモを見返して、話の流れがおおよそ再生できれば十分である。 メモをとる際は、「余白」をかならずあけておく。ぎっしりと書き込んだ状態では追加が不可能だ。顧客の話はしばしば横道にそれたり前にさかのぼる。理路整然と進むことなど期待薄といえる。 11. メモの効用はさまざま 顧客の話の内容を記録するという直接的な目的のほかに、メモにはさまざまな効用がある(図4-6)。メモは、情報の記録と整理を同時に処理するきわめて高度な作業である。例外的な場合を除き、人はメモをとられて悪い気持ちがしない。自分が尊重されていると感じるからだ。メモは顧客との人間関係を良好にするのである。 ![]() また、話の内容の備忘にとどまらず、顧客へ話の先を促す絶大な力がある。さらに、人は書きながら考え、手を動かしながら頭を整理していることから、思考を活発にする。 ただし、ヒアリングではメモをとると逆効果になる場合がある。営業マンはこの区別をしっかりと行おう。 一般に自社の機密に属する情報を、これまで取り引き実績がない営業マンに話すことには抵抗がある。顧客先の担当者は、商談におけるこうしたこうした情報の価値を承知している。特定の取り引き先を利する情報を自分が提供したことを、社内や部内で知られたくない。 営業マンはメモをとるかとらないかの判断をまず的確に行うことだ。むろんケースバイケースであり、相手の性格にもよる。メモをとろうとしたばかりに顧客に警戒され、商談に直結する肝心な情報を逃してしまうこともある。 12.顧客の重点課題を明確化 このステップでは、最終的に顧客の重点課題を明確にすることが狙いである。つまり、提案営業を通じて解決に貢献しようとする「課題」を明らかにするわけだ。 提案のための機会とは、顧客の現状に潜むビジネスチャンスにほかならない。営業マンがどこに提案のきっかけを見つけるかである。これは営業マンが収集し整理した情報に基づき、顧客の現状を分析して行う。提案のための機会を発見する手順を次に示そう(図4-7)。 ![]() ①顧客の現状変化:顧客の現状における際立った変化を把握する。項目を立てて、箇条書きで整理すると分かりやすい。 ②自社との取引変化:既存顧客の場合は、自社との関係における著しい変化を把握する。ここでは質的変化と量的変化に分けて整理する。また、主力商品について取り引きがどのように推移したかは重要である。 ③顧客の目標:顧客が理想とする姿、目指すべき状態を設定する。顧客の夢や願望なども含める。 ④顧客の問題点:「負」の現状に潜む要因を探り出す。好ましくない現状を招いている原因である。これも項目を立てて整理する。なお、顧客が問題点を自覚しているとは限らない。営業マンが質問を投げかけて把握するとともに、冷静な観察が必要になる。 ⑤競合の認識:ライバルの強みと弱みを認識する。とくに弱みに重きを置いて行うことが大切である。ライバルの弱みは、提案のための機会に直結するからである。ライバルの強みについては、何とか無効化できないかと考えてみることも必要だろう。営業マンがライバルを把握したうえで、どの企業のどのシェアを奪うのかを明らかにする。漠然と売り込みをかけるといった意識ではうまくいかない。具体的に商品を絞り込むことがポイントである。 ⑥顧客の課題:目標を実現するために顧客がなすべきことである。むろん課題はさまざまであり、とくに重要度や緊急性の高い課題は何かを検討する。 ![]() 提案のための機会の発見では、顧客の抱える課題を明確にすることが決め手となる。営業マンは把握した問題点を、顧客にとって目標を実現するためになすべき「課題」へと昇華させることで、提案に向けて大きく前進するのである(図4-8)。 |
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