第3講◇<STEP1>
顧客情報の収集と整理
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 今回からは、段階を着実に踏んで提案営業を進める。営業マンは提案すべき顧客を絞り込んだうえで、顧客に関する基礎的な情報を収集して客観的に整理しよう。提案営業の第一歩は、顧客を理解することである。
この記事は、私が「提案営業研修」で用いてきた事前課題図書に収めた原稿です。私の営業本の第一作『提案営業成功の法則』(日本実業出版社)に若干の増補を行ったものです。 1996年の刊行から相当な歳月が経ちましたが、いまだに通用する内容です。「提案営業」に関する基礎知識が得られると考えて掲載しました。
1.提案営業の特徴とは?
 かつて営業マンの最大の関心は、顧客からの「断り」をどうはね返すかにあった。それができれば、販売成績はさらに伸びるという発想である。関連する図書やセミナーがずいぶんと脚光を浴びた。
 だが、こうしたテーマはすでに過去のものである。なぜなら、断らない顧客が存在することが前提となっているからだ。今日の営業活動、とくに新規開拓で営業マンがいきなり売ろうとすれば、顧客からことごとく断られるのが実状である。
 提案営業とは、そもそも断られないために用意周到に仕掛けていく営業方法である。準備が整わないうちは、安易に売り込みに入らない点に大きな特徴がある。そのかわり万全を期して提案するからには、かならず成功させるという気概で取り組む。提案営業では手間をかける分だけ、商談の成功率を向上させることが重要となる。

2.営業活動の効果と効率
 一般に営業活動で効率を追求すると効果は低下し、効果を追求すると効率が低下する。提案営業とは“個客”へ最適な働きかけを行う「効果重視型」の営業方法である(図3-1)。そこで、効果的な提案営業を効率的に実践するために、提案先顧客を思い切って絞り込む必要がある。これにより効果と効率というジレンマを克服する。


 提案営業では少なからず顧客の選別をともなう。これからは右肩下がりの時代という認識のもとに、優良顧客の獲得と育成を目指す。提案件数をやみくもに増やしたところで準備に忙殺され、個々の提案内容の質を損ってしまう。商談の成功率が低いと予想される顧客へ、提案の労力を費やすわけにいかない。
 営業マンはまず顧客を厳選して、高効果かつ高効率の提案を行うことに傾注しよう。

3.顧客に対するプロポーズ
 提案書をプロポーザルとも呼び、それを用いて行う提案営業をプロポーザルセールスとも言う。この「プロポーズ」の意味をかみしめてほしい。提案営業は、営業マンが「提案書」というコミュニケーションツールを介して、顧客のベネフィットに直結する知恵の体系を提供する“求愛行為”である。
 一遍に10人の相手へプロポーズすれば心がこもらず、結局は一人の心をとらえることもできない。効率を優先して、効果をまったく失うケースである。相手を特定することがプロポーズの効果を高め、ひいては効率を高める条件である。

4.告白の相手を間違えると…
 営業マンは知恵の体系を提供するわけだから、顧客とはあくまでも対等の関係である。そして、長期に渡るパートナーシップの確立に努める。
 提案営業では相手がプロポーズに値するかどうかは、きわめて重要である。営業マンが苦労して素晴らしい提案をしても合見積もりをかけられたあげく、ライバルにそっくり売り上げを奪われたという話をしばしば耳にする。「お気の毒さま」と言うしかない。プロポーズする相手を間違えた典型的な例であり、提案に持ち込むまでの環境づくりに手落ちがあったのだ。
 こうした可能性のある顧客へ営業マンが取る手立ては、次のいずれかである。第1は、さっさと見切りをつけて手を引く。無理につきあってもろくなことがない。第2は、相手を“改心”させてからプロポーズすることである。顧客が提案の尊さと大変さを認識しないかぎり、提案営業は成立しないのである。

5.提案者と提案先が存在
 提案という行為には、提案者と提案先が存在する。ごく当たり前の話だが、意外と理解されていない。提案書は、当社から御社へ提出するものであり、あなたのために私がまとめたものである。


 したがって、提案書は、「記名」が原則となる。差出人も宛先もないラブレターに、どんな効果を期待できるだろうか。提案とは、決して不特定多数に向けた行為ではない。残念ながら、提案書とパンフレットの本質的な違いが分かっていない営業マンが多く、せっかく提案書を作成しても生かし切ることができない(図3-2)。



6.提案書ばらまき事件!?
 この件に関して、私には苦い思い出がある。和田創研は提案書のイージーオーダーシステムを構築するお手伝いをしている。商談でいちいち提案書を作成しなくてすむように、その企業に不可欠な提案書のサンプルを体系化し、フロッピーで提供する。
 営業マンは提案の都度、フロッピーから必要なサンプルを選択し、自由に組み合わせる。あとは提案先と提案日、見積もり金額を入力し、プリントアウトすればよい。提案書作成の手間を省力化するとともに、提案内容の質的向上を実現する。
 さて、和田創研が企業から受託した提案書のイージーオーダーシステムを無事に納入した直後、思いもかけぬ事件が起こった。これはありがたいと、ある営業マンは提案書を片っ端からプリントアウトして、テリトリー内のすべての見込客へ一斉に配付した。サンプルの選択と組み合わせの手間さえも惜しみ、記名もないままにである。
 提案書をチラシのようにばらまいたため、顧客からの反応が皆無であるばかりか、二度とシステムを利用できなくした。営業マンは提案の意味と提案書の役割を認識したうえで、提案営業を進めよう。

7.見込客の抽出は2通り
 見込客の抽出には、次の2通りのやり方がある(図3-3)。


(1)既存顧客の見直し
 飽和市場では、顧客と継続的につきあうことが基本である。営業マンは新しい切り口を発見して、何度もアプローチを繰り返さなければならない。
 例えば、顧客が過去に主力商品を購入ずみであれば、その隣接・周辺・関連商品へ広げて、段階的に提案する。あるいは商品の複合化によるシステム、高度化によるグレードアップを提案する。
 営業マンは顧客を熟知しているつもりだが、馴れるに従って当初の新鮮な問題意識がくもりがちである。顧客に対して情報収集と観察を続け、新しい切り口の発見に努めないかぎり、取り引きの拡大は困難である。
(2)新規顧客の洗い出し
 営業マンは日常活動で多様な接点を利用して、顧客の開拓を試みていることだろう。
 既存顧客から見込客を紹介してもらうのは、もっとも有力といえる。顧客は「最良のセールスマン」であるからだ。営業マンの言葉を尽くした説得よりも、顧客のたった一言の推奨がしばしば商談の決め手となる。ただし、営業マンが顧客満足を実現していることが前提である。成績の優秀な営業マンは、見込客の紹介の比率が概して高い。工務店の住宅営業が典型的なケースだろう。
 また、家族や親戚などの縁故、友人や知人、異業種交流会などの人脈を生かしたい。日頃から充実したネットワークを形成する努力が求められる。
 昨今では困難さが増す一方だが、“飛び込み”は依然として営業活動の基本であり、王道でもある。自社が展開する催事へ動員したり、キャンペーンの特典を提供するのも有効だ。
 なお、見込客を広範にリストアップするには、市販の企業名鑑が便利である。業界団体の名簿も参考になる。

8.提案先顧客を絞り込み
 見込客をできるだけ多く抽出したら、そこから一定の基準に従って提案すべき顧客を絞り込んでいく(図3-4)。その際に商談成立と利益実現の可能性を検討して、提案のプライオリティを決定する。


 むろん、購買の時期や金額、支払いの条件や能力を予想するほか、自社や自分への好意度なども加味して行う。また、今日よりも明日の基準を重視する場合がある。購買の余力、取り引きの安定性や継続性、業界の発展性や企業の成長性などである。







9.正確で詳細な情報が必要
 いよいよ「提案準備」のフェーズに入る。営業マンが情報力を駆使して、顧客に関する情報を掘りさげることが一番のポイントとなる。


 提案営業の第一歩は、営業マンが顧客を理解することである。そのために、できるだけ正確で詳細な情報がより多く必要である。情報を集めれば集めるほど、提案のための機会を発見しやすく、多角的なアプローチが可能になる。
 こうした情報は、提案の方向性や内容を大きく左右する。営業マンは効率的な情報収集を行い、顧客に見合った効果的な提案を実現しよう。なお、収集した情報は、営業日報や顧客台帳、新規顧客開拓カードなどに、訪問の記録とともに書き込んでいく(図3-5)。最近では顧客に関する一切の情報を営業マンがパソコンに直接入力してデータベース化し、全員で共有する傾向が強くなりつつある。
 提案営業に取り組む営業マンが収集すべき顧客情報は、実に多岐に渡る。直販営業と流通営業では項目が異なり、直販営業でも顧客が法人か個人かで異なる。参考までに主要な項目を列挙するが、営業活動や商品の特性に応じてピックアップしてほしい(図3-6)。これらは企業秘密やプライバシーに属することが大半だが、提案を行う以上は把握しておきたい。



10.情報収集の心構えとは?
 必要とする情報を収集するためには、営業マンが顧客から信頼されることが先決だ。顧客の悩みなどの切実な話が聞けるようになれば、信頼度がおおいに増してきた証拠である。
 営業マンは顧客先にいくつかの情報ルートを確保しよう。商談でおいしい話にでくわしても、複数の情報源でその真偽を確認する作業を怠ってはならない。
 また、たとえ同じ顧客先の社員であっても、こっそり聞き出した情報や情報源については他言しない配慮が必要になる。情報の提供者は営業マンに好意的であり、事後報告を励行すれば次もまた有益な情報を提供してくれるはずだ。
 なお、営業マンが顧客に関して上司に報告したり相談する際には、事実、推測、意見の区別を明確にする。これらがごちゃまぜの状態では、上司が判断や指示を誤る。

11.情報提供が情報収集の近道
 営業マンに対する期待感があればこそ、顧客は自らに関する情報を喜んで提供してくれる。
 営業マンが無理に情報を引き出そうとするだけだと反発されるし、警戒されてしまう。まずこちら側から進んで情報を提供することが、顧客から情報を収集するための近道である。何の工夫もない画一的なアプローチでは、新規顧客の関心さえ引きつけることができない。足を2~3回も運ぶうちに、話の材料が尽きる。
 そこで、何らかの情報を“お土産”として持参する。それは営業マンが日常接する新聞や雑誌、業界紙や専門誌から得た情報で事足りる。これらの媒体から顧客に関連する記事を切り抜くなどして、タイムリーに提供する。
 どの会社や職場にも、良質な情報が顧客のほうから飛び込んでくる営業マンがいるものだ。彼らは情報の「ギブ&テイク」を例外なく実践している。今日、情報をよく集めるとは、よく発すると同義である。情報は、発する人が大好きなのである。
 私は公開セミナーなどで、情報提供は知恵の時代のビジネスマナーだと説いている。いつまでも時候と愛顧の挨拶だけでは、あまりにも進歩がなさすぎる。実際、営業マンが取り組む商談の規模が大きくなるほど、相手の地位が高くなる傾向がある。そして、相手の地位が高くなるほど、こうした「知的アプローチ」が利いてくる。とくに決定権者やキーマンは良質な情報を欲している。

12.提案のタイムリミット
 提案先顧客を絞り込んだ段階で、提案のタイムリミットを設定することが望ましい。営業マンは時間に追われる毎日であり、つい先延ばしにしがちである。あらかじめ顧客へ提案日を申し入れることで、自らを追い込んでいく。プロポーズはタイミングが重要であるように、提案にも“旬”がある。格好の機会を逃しては、ライバルに遅れを取る。
 なお、提案先顧客がいくつかある場合は、全体スケジュールを作成するとよいだろう。

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