第2講
自己の採点/提案営業のプロセス
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 まず、自社や自分の営業活動の理想を考え、実態を見直そう。提案営業を推進するうえでの課題が明確になるはずだ。そして、提案営業を実践する際の基礎的な手続きについて、全体の流れをざっくりと頭に入れておこう。
この記事は、私が「提案営業研修」で用いてきた事前課題図書に収めた原稿です。私の営業本の第一作『提案営業成功の法則』(日本実業出版社)に若干の増補を行ったものです。 1996年の刊行から相当な歳月が経ちましたが、いまだに通用する内容です。「提案営業」に関する基礎知識が得られると考えて掲載しました。
1.営業活動の特徴を分析
 私が企業研修の冒頭に取り入れているゲームを紹介しよう(図2-1)。自社の営業活動の特徴をレーダーチャートを用いて客観的に分析するものだ。理想とすべき営業活動のあり方を考えるとともに、営業活動の実態を見直すには好都合である。


 一口に提案営業と言っても、そのあり方は業種や商品によって実にさまざまである。営業活動の特徴を決定づけるのは、①商品力、②情報収集、③情報分析、④提案内容、⑤提案書作成、⑥提案行為の6要素である。それぞれについて、ごく簡単に説明する。
①商品力:価格競争力を含めた競合商品との差別度である。
②情報収集:見込客の発掘を含めた顧客情報の収集の重要度である。
③情報分析:顧客の課題の明確化を中心とする顧客情報の分析の重要度である。
④提案内容:独創性の打ち出しを中心とする提案の内容の重要度である。
⑤提案書作成:ビジュアル的な美しさを含めた提案書の作成の重要度である。
⑥提案行為:顧客への説得力の強さを中心とする提案の行為の重要度である。
 このなかで、①の「商品力」は営業マンの努力で変えることができず、別格扱いとする。

2.ケーススタディ◇リフォーム会社
 さて、リフォーム会社A社の事例を取りあげて、分析の仕方を詳しく解説していこう。
①商品力:ライバルと比較して優れた技術や資材があるわけでなく、リフォームにかかる費用も平均的だ。商品自体による差別度は「2」といえる。
②情報収集:リフォーム営業にとって重要である。顧客の希望はもとより、その家族構成、ライフステージ、ライフスタイル、趣味、大型家具などの情報は仕込んでおいて当然だ。住宅構造など、施工に関わる技術的な情報も必要となる。アウトドア用具の収納に困っている、近所を気にせずカラオケで思い切り歌いたいなど、生活の現状への不満や将来への願望も聞き逃せない。また、決定権者が夫か妻か、あるいは子どもなのかも押さえておく。現在の年収はいくらか、リフォームの予算はどの程度か、ローンを利用するつもりかなど、顧客の経済力に関する情報も欠かせない。リフォーム営業では、情報収集のきめ細かさによって、提案内容の善し悪しがほとんど決まってしまう。そこで、情報収集の重要度は「5」とする。
③情報分析:家族一人ひとりがリフォームについて、欲張りな夢を持っている。その要望にすべて応えようとすれば費用に限りがなく、新築以上にかかる。そこで、情報分析によって顧客の課題を明確にし、提案内容のプライオリティを判断する必要がある。情報分析の重要度は「4」としよう。
④提案内容:情報の収集と分析が的確であれば、設計プランの方向性はおのずと見えてくる。リフォームは新築に比べて制約が多く、提案内容の独創性といっても限界がある。提案内容の重要度は「3」である。


⑤提案書作成:演出による差別化が大事である。同じ設計プランでも、見せ方次第で印象が異なる。完成予想図や間取り図などをビジュアルに展開して、顧客の夢がふくらむ魅力的な提案書に仕上げよう。顧客はライバルにも声をかけているはずであり、提案書作成の重要度は「5」である。
⑥提案行為:顧客に設計プランの素晴らしさを納得してもらう。また、事前に情報の収集と分析を入念に行っていても、その場で要望が追加されたり、思いがけない質問も飛び出すだろう。そうした事態でも、営業マンは誠実かつ適切に対応しなければならない。提案行為の重要度は「4」である。
 ここまでの分析結果をレーダーチャートに“破線”で記入してみた(図2-2)。A社が理想とすべき営業活動のあり方が一目瞭然である。合わせて営業活動の実態を採点し、こちらは“実線”で記入した。A社にとって、「情報収集」の強化が今後の重点課題となることが理解できよう。


 また、工作機械メーカーB社についても同様の仕方で分析したのち、要素ごとに「実態÷理想」のスコアを算出し、グラフ化した(図2-3)。B社は「情報分析」が極端なネックとなり、営業活動の成果を著しく低下させている。ここをテコ入れするだけでも、全体の確実な底上げにつながる。






3.自社と自分の分析に挑戦!
 いよいよあなたが挑戦する番である。商品の種類がいろいろある場合には、重点商品に絞り込んで行おう。
 まずは、自社の営業活動はかくあるべしという「理想」を採点する。目標とする提案営業を明らかにするわけだ。理想だからといって、すべての要素を「5」としない。できるだけ要素ごとにメリハリをつけよう。次に、自社の営業活動の「実態」を採点する。つまり、提案営業の現状を明らかにする。そして、両者をレーダーチャートに記入し、ギャップの部分を“斜線”で埋める。
 なお、商品力の採点は実態で行い、両者とも共通とする。管理者やマネジャーは部門全体を分析し、若手や中堅の営業マンは自分自身を分析すると効果的である。


 ここで、商品力と提案営業の関係に、次の傾向があることを指摘しておこう(図2-4)。商品力が大きいほど、チャートの下半分がしぼむ。提案営業を行わなくても、商品が売れるという場合だ。逆に、商品力が小さいほど、チャートの下半分がふくらむ。提案営業による差別化が必須となる場合である。




4.自社と自分の診断の仕方
 理想と実態それぞれの総合点を算出し、さらに両者の得点差を算出する。この得点差から全体的な診断を行うと、5点から10点までの間にかなりの人が収まる。各要素の平均得点差が1~2点あることになる。得点差が10点を超える場合は改善を急ごう。理想と実態のギャップがあまりにも大きい。思いどおりの成果が上がっていないはずだし、このまま放置しては危険である。
 一方、個別的な診断を行うと、理想点が5点の要素は営業活動のなかでも注力しなければならない「焦点」といえる。得点差が3点以上の要素は「弱み」である。これは今後の重点課題であり、早急な強化が必要となる。逆に、得点差が0点の要素は「強み」である。ここを拠りどころとして、さらにライバルとの決定的な差別化を目指す。

5.問題意識の高低が明白
 これらの分析作業はできるだけ客観的に行うが、少なからず当人の主観が反映する。ここがゲームの隠された狙いである。
 営業活動に対する問題意識が強い人ほど、得点差が大きくなる。経営者や管理者など、地位が上になると一層顕著だ。企業研修ではこうした人たちが最前列にしばしば陣取る。得点差の小さいほうから3点きざみで挙手してもらうと、実に見事である。後方から徐々に手が挙がりはじめ、目の前の手が一番最後に挙がるという具合だ。
 このゲームでは、営業マンの問題意識の高低が驚くほど明白になる。管理者やマネジャーは自らが統括する部門でぜひ試みていただきたい。営業活動のあり方と課題を、全員でとことん話し合う格好の機会となるだろう。

6.提案営業の実践フロー
 提案営業の実践フローは、3つのフェーズ、9つのステップから成り立つ(図2-5)。こうしたプロセスをきちんと踏むことで、顧客に対する最適な提案が可能となり、結果として商談の成功率が高まる。


 私はいろいろな企業で営業マニュアルを見せてもらうが、プロセスが複雑すぎて営業マンがついてこれないのではと心配になってしまう。営業マニュアルは「時間」を軸に編集し、営業マンが取るべき行動、行うべき作業をシンプルに記すことがもっとも大切だ。
(1)提案準備のフェーズ
 営業マンがおもに「情報力」を駆使して、次のステップで進める。提案営業の第一歩は、何といっても顧客を理解することだ。
①顧客情報の収集と整理:提案すべき顧客を絞り込んだうえで、顧客に関する基礎的な情報を収集して客観的に整理する。
②提案のための機会の発見:顧客へ質問を投げかけて現状における問題点を把握し、顧客の課題を明確にする。それは提案のための機会に直結する。
③提案の方向性の決定:顧客の課題を解決する方針にほかならない。自社の強みを生かして、課題解決にどのように貢献するかを検討する。これで提案内容のアウトラインが固まる。
(2)提案内容のフェーズ
 営業マンがおもに「企画力」を活用して、次のステップで進める。魅力的な内容を考え、分かりやすく提案書にまとめる。
④提案の内容の具体化:顧客の抱える課題を解決する手段として、自社商品を適切に位置づける。提案の受け入れにより顧客が享受するベネフィットを最大化するように知恵を絞ろう。
⑤提案のシナリオの設計:同じ提案内容であっても話の持っていき方により、説得力に大きな差が出るものだ。顧客の特性に合わせ、効果的なシナリオを組み立てる。
⑥提案書の作成と仕上げ:商談が成立するかどうかは、提案書の出来次第といえる。具体化した内容を、設計したシナリオに従って提案書にまとめ、とことん磨きあげる。
(3)提案行動のフェーズ
 営業マンがおもに「説得力」を発揮して、次のステップで進める。提案内容に対する顧客の理解と評価を獲得し、受け入れを強く促す。
⑦プレゼンテーションによる説得:作成した提案書に基づいて、顧客を説得する。トーク、パフォーマンス、ツールの3要素をバランスよく駆使して、提案内容の魅力を存分に理解させる。
⑧商談のクロージング:一通り提案内容を説明し終えたら、商談をクロージングする。顧客にとって最大のベネフィットをダメ押しし、その場でかならず色よい返事を引き出す。
⑨受け入れ後のフォロー:顧客が提案を受け入れた後も決して気を抜かず、信頼関係を深める。この段階における営業活動のあり方は、顧客の満足度に重大な影響を及ぼす。
 次講からは9つのステップを順番に取りあげ、より具体的に解説していこう。

7.情報収集による顧客理解が大切
 先に説明したプロセスとの関係から、提案営業を実践して成功へ導く要諦をあらかじめ述べておきたい。


 営業マンが顧客へ適切な提案を行うためには、顧客からの情報収集を充実させなければならない。この情報収集と提案はインプットとアウトプットの関係にあり、提案営業を構成する両輪である(図2―6)。営業マンが顧客情報を突っ込んで収集するほど課題が明確になり、提案内容も的を射たものとなる。
 私はコンサルタントという仕事柄、営業マンに同行して商談振りを観察する機会が多い。そこで何にもっとも失望させられるか? 営業マンが顧客をろくに理解しないうちに「買ってください」と口にしてしまうことである。プロポーズにたとえると、相手をほとんど理解しないうちに「結婚してください」と申し入れてしまうのと同じである。
 こうした性急なやり方では、商談はとても成立に至らない。営業マンは顧客を理解してから商品をすすめるという、ごく当たり前の手続きをもっと尊重してほしい。それは目の前の顧客に対する最低限のビジネスマナーでもあろう。
 提案営業という知的な営業方法では、営業マンの徹底した情報収集による「顧客理解」がとくに大切であり、商談を進めるうえでの大前提となる。極論すれば、商機(ビジネスチャンスの意)は自社の側にない。顧客理解から商機が生まれ、顧客理解から商機が広がる事実に、営業マンは気づくべきだ。

8.優良顧客の獲得が最大の狙い
 右肩下がりの経済では、市場のパイ自体の拡大が見込めない。優良顧客をどれくらい育成し保有しているかで、営業マンの成績も企業の業績も著しく左右される。顧客の量よりは「質」を問うべき時代に突入したのである。
 提案営業の狙いを一言で表せば「優良顧客の獲得」になるが、これを3タイプの顧客に分けて考えてみよう(図2―7)。


(1)既存顧客の確保
 ライバルとの競争がますます激化するなか、既存顧客をしっかりとつなぎ止めることが先決であり、これは提案営業の重大な役目だ。現実的な話として、既存顧客に対する営業活動でライバルより数段優位に立てなければ、自社利益の実現などありえない。
 この既存顧客の確保という狙いにも、前向きの「深耕」と後ろ向きの「防衛」という対照的な2つの側面がある。
①既存顧客の深耕:顧客とのつきあいが長くなるほど、営業活動は惰性に流されやすい。営業マンの問題意識がくもり、新たな商機をなかなか発見できないため、従来の取り引きを維持するのが精一杯になる。
 相手が勝手を知った既存顧客であっても、あえて提案営業で働きかけないかぎり売り上げは伸びないだろう。また、既存顧客の深耕は、ライバルの攻勢から防衛することにつながる。
②既存顧客の防衛:どの企業も業績の低迷に直面し、もがき苦しんでいる。ライバルにわずかでもスキがあれば、その顧客を奪い取ろうと狙っている。一方、顧客の側も業績の低迷にあえいでいる状況は同じである。自社に少しでも有利な条件を求めて、取り引きの内容や相手先を見直したいと考えている。
 営業マンが顧客とのつきあいが長いからといって、安心は絶対禁物である。ライバルの攻勢を横目でにらみながら、やはり提案営業でタイミングよく働きかけ、既存顧客を死守しなければならない。
 価格破壊の昨今、とくに優良顧客の離脱を阻止するため、自社の売り上げが落ちるのを承知しつつ、それでも提案せざるをえない辛いケースがある。例えば、素材メーカーや部品メーカーは、顧客からコストダウンの要請を定期的に受けるはずだ。そこで「VA(費用削減のための機能分析の意)提案」などで対応することになる。
(2)離脱顧客の奪還
 顧客が定着せずに激しく流動するなか、自社を捨ててライバルのもとへ走った離脱顧客を連れ戻すのも提案営業の切実な役目だ。ライバルが魅力的な新商品を投入した場合を除き、顧客が自社の対応や営業マンのフォローなどに不満を持った場合が多い。
 一度信頼を失った顧客に対して、営業マンが口頭レベルで“復縁”を懇願したところで説得力は生まれるだろうか。ここは反省の気持ちと従来の改善点に加え、顧客の幸福や繁栄につながる新しい約束ごとを文面にしたため、提案営業で訴えかけたい。
 また、自社や営業マンに落ち度がなくても、顧客がライバルのもとへ走ってしまう場合はある。隣の芝生はつねに青く見えるためであり、ちょっとした迷いや出来心からの浮気と似ている。そして、顧客自身が後悔するというみじめな結果に終わることもある。
 しかし、これも提案営業で呼びかけないかぎり連れ戻すことはできない。なぜなら顧客の側に捨てた負い目があるからだ。営業マンは顧客から復縁を希望しづらい事情を察してあげてほしい。
 なお、離脱顧客の奪還には営業マンの自信が回復し、自社の士気が高揚するという副次的な効用がある。
(3)新規顧客の開拓
 既存顧客を維持するだけでは、むろん売り上げは伸びない。見込客を果敢に発掘し、新規顧客へねばり強く育てあげることも提案営業の必須の役目だ。しかし、成長市場から飽和市場へ移行するにともない、「新規開拓」の実態がすっかり変わってしまった(図2―8)。



 バブル崩壊前には新商品が次々と登場したから、新規開拓の対象は「未購入者」が中心になった。バージンカスタマーが市場にまだまだ存在したのである。バブル崩壊後では商品が一通り浸透したため、新規開拓の対象は「購入者」が中心になっている。純然たる新規顧客は市場にもはや存在しないと考えたほうが現実的である。
 したがって、今日の新規開拓とはライバルの既存顧客、それも優良顧客を奪い取ることにほかならない。トライアルユースを促して自社商品を普及させる活動から、ブランドスイッチを促して自社商品に買い換えさせる活動へ、その性格が一変したわけである。
 しかも商品の差異がどんどん縮小するなかでブランドスイッチを図っていくのだ。従来と比較して、新規開拓が驚くほど困難になった事実に気づいてほしい。営業マンがもてる能力と時間を有望な見込客へ意識的に配分し、提案営業でていねいに働きかけることにより、ようやく新規開拓の成果は上がる。
 これら提案営業の3つの狙いから、共通のツールが浮上してくる。そう、顧客に対する「提案書」というラブレターである。とりわけ大口商談の場では、提案書に基づく個別の説得が不可欠になりつつある。

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